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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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悪魔が庭の桜の木によじ登ろうとしていた。。



じいちゃんに知らせに行こうとしたが身体に力が入らない。

縁側に座り投げ出していた素足が楽しそうに揺れるだけだった。

手は動く。

携帯でじいちゃん呼ぼうか、

写メ撮っとこうか、、

いくつかの事がハラハラと頭宙をよぎるも、

タモツは却下した。

物音は出せない。

出したくない。

タモツはそう直感した。


両方の手の平にじわりと汗をかき始めていた。

太ももの裏で慎重に手首を返す。

タモツは思い出した。


悪魔は “こども” には悪さをする、、じいちゃんが言っていた。


15 才をこども扱いし金縛っているのだとしたら “異議” もあるが、

例えば、、

オレかぁ ? 。。正月でちょうど 800 才だ、

と悪魔に言われてしまえば納得するしかない。

15 才なんて産まれたてですよ。はい。


「仕方ない」


じいちゃんには、

よく見ておいて後で教えてやる事にした。


アイツを見んと “いい春” は来ん、、じいちゃんが言っていた。


今年のじいちゃんの春は “ふつう” かもしれない、

そう思うとタモツは少し残念だった。





春の悪魔を見るのは初めてだった。

じいちゃんによれば、コウモリと猫の “あいのこ” という話だった。

でも、初めてお目にかかっているこいつはなんとなく “太ったハチ”。


「ずんぐりでむっくり」


15才のタモツはそう思う。



ツメを使ってゆっくりと幹を登って行く。

背中の小さなハネは使わない。


アレは飾りみたいなもんだ、、じいちゃんが言っていた。


悪魔は途中、手頃な枝があれば揺らした。

しばらく揺らす。

枝の花びらがヒラヒラと舞うと、

その度に悪魔はタモツの方を見た。

表情をうかがっていた。

初めてなのでどうするべきかわからず、

とりあえず、、“コラっ” 的な目で睨んでみると、

悪魔はたいそう嬉しそうだった。

タモツは思い出した。


悪魔は喜ばせてやるのが一番だ、じいちゃんが言っていた。


「正解だったのかな」



やわらかい日差しと時折の桜吹雪。

今日何度めか、、

“コラっ” 的な演技にもすっかり慣れた。

ヌルい風に混ざる “なにか” が急速にタモツの眠気を誘発する。

重いまぶたの隙間から悪魔の “してやったり顔” を確認した。

気がつけば、悪魔はずいぶん上にいる。


「最後まで見届けないと。。アイツ。。」


全身を覆いつくした欲望に抗えず、

ついに身を委ねた時、

タモツは心地よくヌルい泥の穴へと一直線に沈んで行った。



花見。

つい先週の出来事がぼんやりとまぶたの裏に再生される。


今年の豊橋家恒例の庭花見は3人きり。
父さん母さんはアキ姉絡みで全員帰国せずフロリダ、タケ兄はギリギリ開幕1軍に滑り込んだので仙台、家にはじいちゃんとばあちゃんと3人だった。
だから花見も3人。
中止は、、聞いた事ない。
例によって縁側にホットプレートを運んで、ばあちゃんが全員分の塩ヤキソバを、各々が自分のオニギリを焼いた。
あの時 “クボミ” の話を考えていた。
小学校に上がる時、タケ兄に教わった桜の木のクボミの秘密。
誰にも言うなと言われていたから黙っていた事。
10 年後のあの日、ふと思い出し、、2人に話そうか考えていた。
この家の事でじいちゃんとばあちゃんに知らない事はない。
でも、、結局、聞かなかった。
不慣れから来る恐怖と、、多分、、若干の寂寥。
“何か” を明らかにする事に臆した。

間もなくじいちゃんがココに来ると思う。
身体も動く様にしてくれる。
そしたら、、じいちゃんと桜のクボミを見に行こう。
クボミの秘密を確かめに行こう。
その時、、
もしまだ悪魔が見られれば、
じいちゃんの春は、今年も “いい” に違いない。
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