「サイゴにおアいしたのはいつでしたっけ？」
その声が耳に届いた時、
ちょうどまさに「真っ青な本」を手に取ったところだった。
すぐに声に気がついたと思わせぬ為に、視線を上げるまでにわざと「間」を空ける。
へぇこれが巷で噂のかと大袈裟二割増しの演技を含ませながら本の外見をじっくりと観察した。
背表紙やカバーを丁寧に指でなぞりながらこの一冊に関係者が込めた「オモイ」に思いをはせてみる。
くるくると見る角度を変えては時々は目や表情に微かな変化を表した。
後付けをぱらりと開く。
そろりそろりと視線をあげながら表紙をもう一度まじまじと眺めた。
ぼんやりと「声のでどころ」らしきを視線の端に入れてみる。
どうやら、やはり、そうだった。
いよいよ、とドアを開けるように真っ青な本を開く。
「そのホン、ヨまないほうがいいですよ」
声には構わずに目次を目で追った。
追うだけ、読んではいない。
意識はすっかり「視線の端」の声の主に向けられていた。
頁を開いたままの本を両手にそのままにゆっくりと顔だけ上げる。
おーいここですよー、と静かに発散されているオーラに思わず吹き出しそうになった。
首から肩、付け根の辺りを小さく動かしながらまずは遠くを見る。
新刊本の平積みの島の対岸に現れた「ホンのムシ」のベクトルは完全にこちらに向いていた。
でもまだ見定めずに奥の棚にフォーカスする。
カメラのズームするようにジッジーィと心に唱えてみた。
人集り、とまではいかないが奥の棚では入れ替わり立ち止まる者が絶えない。
ビーズ、セーター、マフラー、ぬいぐるみ、、なるほど「手芸」のコーナーがささやかな盛況だった。
季節である。
もう完全に秋なのだった。
忙しさに衣替えのタイミングを逸し続けている。
ホントの秋は来月から、そう決めてしまってから、
なんだかこの広い世の中で一人だけまだ夏を残したままだった。
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