「ぁーぁ ぁーぁ」
やれやれとわたしは声のする網棚を見上げた。
案の定、朝の通勤列車ではなかなか見慣れぬものがわたしをじいと見下ろしている。
久しぶりに「その類い」からの接触だった。
不運にもわたしの家系は代々霊感が強い。そんな事をようやく忘れかけていると、使いのように何かしらが現れては厄介な血筋を実感させられた。
レモンは初めてである。
あるいはそっくりな何かではと冷静に見直してみたがどうやらそのものだった。例の手の平大の酸味の強い柑橘である。大きさと色艶からおそらく外国産のハズだった。レモンはさも眉間に皺を寄せてる風で「いかんだろ」と残念がっている。(実際に聞こえてくるのはあーあーといった胎児の発声のような音なのだが)
何がだよ
わたしはレモンを軽く睨んだ。そして、玄関からここまでの中距離走ですっかりあがった息を豪快に整えながら、自分の行動を振り返ってみる。(こういう時、わたしは隠そうとしたり抑え込もうとしない質。乱れた呼吸なんて次の駅までに一気に回復させてしまいたい、そういう人)
今朝もわたしは駆け込み乗車をするりとキめると、はいすいません、はいすいませんといつも通り比較的「ゆったり混み」の車両の中程まで進んで行った。それから、定刻通り動き出す列車への安堵の中で濡れた傘を雑に畳んでカバンに放り込み、、ははぁん、どうやらそこに異議があるらしい。
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