「あ、おなか鳴っちゃった」
女。
目を逸らさずに言うからまたしてもこっちの方が照れていた。
東からひっそりと闇が明けだしている。境界の時間に世界は青く染まっていた。朝夕2度、夏は青い世界が長いので起こる色々な事に遭遇する。
まだ川の水が残る女の髪にそっと手を伸ばした。頭頂から耳の辺りにかけて指の背を滑らせる。しっとりと爪が濡れた。これまで培ったあらゆるテクニックを駆使しようともしっかりと視線は外されず女は動じない。唇を奪おうと指先を頬のラインからアゴに伝わせるとぬらりとテリトリーからすり抜けた。魚らしい。
週末に行われた花火大会のあとを漁っていた。一番の狙いは不発玉である。用を足そうと葦をかき分けた。風の中ににおいが強まると視界が開けて大きな流れが視界を占める。水は川の中央でゆるやかに逆流していた。すぐ上、低い空で熟れた月がほぼ満丸でる。月明かりが揺れる水面に反射していた。神妙な存在の空気におそるおそる目を向けてみる。黒く大きな一匹の魚が水際の浅瀬につかまっていた。
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