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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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「スピードをあげてくれ」

それは乗客であるこっちのセリフである。
やはり人間の運転手の車を待つべきだった。


あいにくただ今ご用意できますのが、と明らかに口ごもった案内係の声を思い出す。
電話口の自信のなさ気のワケを今なんとなく理解していた。


「オキャッさん、オキャッさんっ」

お客さんね
これ以上は無理というやんわりで正す。
気をそらそうとドアに寄った。
窓は閉めたままで外を見上げると、
盛夏らしくすっきりと気持ちのよい青空の下、
予報ではそのはずだったのに天気は朝から曇寄りとグレイなのである。


「オキャッさん、オキャッさんっ、、聞いてる?」

だからこっちのセリフ、心でつぶやいてみた。
いや、実際は頭蓋の内部いっぱいに叫んでいる。


「オキャッさんも無口だねぇ」

も、って

「ヤマトナ、デシコがワタシのタイプ」

切るとこ違うんだよ


その全てを吸収したのであろう、
もはや、
目の前の本人よりも指導元の師匠だか先輩だかを恨み始めていた。
そして、
運転手には励ましを含んだ同情が芽生えだしている。



「カード使えましょう、、カード」

まだ目的地ではなかった。
車は動いている。


いや、現金でお願いします

「でも、カードも便利」

また、も、、が


ちぐはぐがいよいよ車内に渦巻いていた。


ふうと息を吐き出してふと見る車窓の景色が消えている。

トンネルにでも入ったのだろうか

中央へと尻を滑らせた。
両手を前のシートにかけて背中を離す。
身を乗り出して行く先を目視した。
ワイパーはずっと動きっぱなしである。



「ああ、わかりました」

運転手がつぶやくとタクシーはそろりと減速を開始した。

何がですか

後ろから顔を寄せて一応聞いてみるも、それが声になったのか定かではない。
なんだか急に脱力に襲われた。
眠気のように湧いたじんわりとしたシビれに抗わずシートに背中を預けてゆく。
車と一体化するかのごとくみるみる全身がシートに埋まっていくのだった。

後部座席のドアが同時に両方開く。
ちょうど電池が切れたかのように惰性を終えてタクシーは停車していた。
霧のようなものがゆっくりと車内の空気と混ざり始める。
まぶたが閉じてしまう寸前、もう二匹が左右から同時に乗込んできた。
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Edit by : Tobio忍者ブログ│[PR]