「あれが踊りだよ」
囁かれて、アレがオドリですか、と口の先で呟いてみる。
我々は三塁側のベンチの裏に隠れていた。
手をついているコンクリートがやたら冷たい。
徐々に体温を奪われながらも、
じっと息を詰めながら動けぬまま「ひるがえる者」に魅了されているのだった。
ひるがえる者は休む事なくひらひらとその身をひるがえしている。
外野の芝生の上を舞う様はまるで長い布だった。
しばらくはわりと狭い範囲でその身をひるがえしていたのだが、
気がつくとその範囲は広がっている。
今はちょうど芝生の薄くなった部分を、
ライトの位置からセンターへ向かって「踊り」は行われていた。
野球場には我々とひるがえる者以外誰も来ていない。
ひるがえる者はそのひるがえりのスピードをゆっくりと加速させていた。
朝陽がオドリを照らしている。
夜が完全に終わった。
「今日には来るよ」
何が来るのですか、とすかさず聞いてみる。
すると集中豪雨だと言った。
しかも「史上最大」のものだと嬉しそうに付け加えた。
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