02_27.5

「今横切ったのがゴキブリってやつでしょうか」

客人は上品に驚いた。
茶托を音もなく引き寄せると湯呑みの蓋に手をかける。
その仕草も極めてエレガントであった。

なんとなく、頭の中でシシオドシをカポンと一つ鳴らす。続けてウグイスを一羽登場させようとした時、粗茶が客人の喉を越した。優雅な弧を描き湯呑みが元の場所へと戻る。客人が微かにほっと息を吐いてからよく通る声が部屋中に響いた。
「素敏(すばしこ)過ぎてよく見えんでしたな」
客人が豪快に笑う。
和の室に意外性が充満した。
その場の全員が遅れて笑う。
床の間の眠り猫が目を覚ました。