「まもなくセカイのオワリです」
そうですかとこたえてみるとアノヒトの中の深い部分から小さなため息が漏れた。アノヒトは急いで流れ星を探すのだがこんな時に見上げる空はいつだってどこまでも厚い雲におおわれている。「ホントにもうマモナクですから」と付け加えると創造主はゆっくりと海へと身体を反転させた。
風は弱く生暖かいそんな世界の最終日である。
かえるのですねという質問が意味のないものである事に気がついて、アノヒトは声帯を震わせずにそのまま二つ目のため息として空気の玉を吐いた。創造主はアノヒトに背を向けると発光を開始する。明滅が心音と同じリズムになると創造主はゆっくりと前に進みだした。音もなく。最後は蝸牛(かたつむり)の姿形であった。
もしも創造主に会えたならと用意していた山ほどの聞きたい事がアノヒトの口から一つも出てこない。アノヒトはただじっと蝸牛の後姿を見送っていた。ゆるやかに蛇行する線を白砂に引きながら創造主はじりじりと進む。やがて水際まで到達すると海水に身を慣らすようにじっとした。ずっとじっとしている。アノヒトは想像していた。立ち上がり創造主に走り寄りその殻にスガっている自分を創造した。連れて行ってくれと懇願する自分を想像してみては打ち消してみる。再び動き始めた蝸牛はゆっくりと小さくなっていった。小さな波に見え隠れしていた殻の頭頂が完全に浸水しこれでアノヒトは独りとなる。
PR