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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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「あれが踊りだよ」

そう囁かれて寝ボケが覚めた。
アレがオドリですか、と口の先で呟いてみる。
我々は三塁側のベンチの裏に隠れていた。
手をついている緑に塗られたコンクリートがやたら冷えている。
徐々に体温を奪われながら、
じっと動けぬままに息を詰めながら「ひるがえる者」に魅了されているのだった。

ひるがえる者は我々に気づいていない。
恥じらう事もなく大胆にその身をひるがえしていた。
舞う様はまるで長い布。
外野の芝生の褪せた緑の上をひらひらと白い身がひるがえっていた。
最初は狭い一点にてその身はひるがえっていたのだが、ゆっくりとその範囲は広がってゆく。
円運動だった舞いに横の動きが加わって、踊るままに左右に移動を開始した。


無音の中に音を聞いている。
ひるがえる者を目で追いながら、
かつて、どこかで耳にしたハズのどこぞの民俗音楽が掘り起こされていた。
いくつか大小の笛が順番にメロディーを奏でてゆく。
山岳地方の土着の音楽がぐるぐると頭に鳴っていた。

ステップするひるがえる者のダンスの範囲は広がって、
ついにはちょうど芝生の薄くなった部分を往復している。
ライトの守備位置からセンターへと踊り跳ねてはまたライトへと戻って行った。

野球場には我々とひるがえる者以外誰も来ていない。
ひるがえる者はそのひるがえりのスピードをゆっくりと加速させていた。
決して休まない。
動きを止めたら、まるで死んでしまうかのように踊り続けていた。
気がつくと朝陽がオドリを照らしている。
夜が完全に終わり次の日が開始した。





「じゃ、ペンネアラビアータで」

連れにならってドリンクバーをつけてみる。

「連れ」はファミレスに慣れていた。

そういうところ、すき

そう思ってみてカラカラとどうしようもなく胸が鳴る。



よく整理されたメニューには秋の文字が乱舞していた。
新しい季節の入口である。
大切にすべき短い暑い季節をなおざりにしたのは自分だった。
甘えて使えていた「来年は」が初めて軽々しく空しくてどこまでも虚ろである。
代償は重かった。



若い店員が丁寧に注文を復唱している。

(行かないで)

店員が仕事を終えて席を離れると「重要な話」が連れの口から溢れだすはずだった。
それはひどく淡々としているのだろう。
もう後戻りは出来ない事は分かっていた。
のに、何かにすがる思いだけがハッキリとしている。

何に

また甘える?



連れは重要な話があるからと急に呼び出して、
二人の間のドアを閉めに今日を選んだのだった。

急に

急?

鈍感



窓の外で上着を脱いだサラリーマンが軒先に駆け込んだ。

アスファルトに雫。

白く薄曇っていた明るい空がいつの間にか暗かった。

文字通り「あっ」と言う間の。

まるで夜のような空に店内が際立った。

雨。

落ちてくる水と地面を打つ飛沫によって一瞬で粗い霧のような光景が外に広がっていた。

固唾を飲んだ店内で勢いよく入口のドアが開く。

びしょ濡れの若者の一団がドアを押して入店した。


張りつめていた二人の「間」が微かに緩む。

小さく息を吐いた。

間もなく告げられる「重要な話」を遮るように、
雨を見入る為にと身体ごと窓の外を振り返っている。

前を向きたくなかった。

正面で別れを告げようとしている冷静な連れから逃げる。

いつもの様にこれまで繰り返して来たように、

現実を棚に上げようとしていた。

弱いから、と言い訳る、また。


落伍 だから「別れ」なのに、、


最後の場所をファミリーレストランに選んだのは連れだった。

久々にいってみようかとペンネに決めると、
パスタの形から連想されたのだろう、
妙な奴が頭の中で踊り出す。

白く尖った布のような者だった。


そいつが今、窓の外の大きな通りを横切ってゆく。

スコールに打たれながら「者」はだらしなくよれよれだった。

それでも何かを主張するようにペラペラのその身をひるがえしては華麗を見せようと軽快に懸命に足を上げる。

でも全然美しくない


雨が止むよりも先に空は明るさを取り戻して来ていた。
軒先のサラリーマンが携帯を耳につけ会釈を繰り返している。

覚悟を決めた。

振り返る。

黙って席を立った連れに怒りのない寂しさだけがこみ上げた。


終わり。


奥のドリンクバーで、連れは今日迄で一番美しく、そして愛しかった。




背に感じる明るさに外の方を振り返ると太陽が差し始めていた。

びしょ濡れのアスファルトがキラキラと光りキレイ。

ん、ナミダ?

視界がじわと霞んでいた。

ぼやけた大通りをびゅんびゅんと車が走り抜けてゆく。

通りの真ん中で「者」が踊り尽きて倒れていた。

自動車は構わずにどんどん轢いてゆく。

「ひるがえる者」を退場させた。


最後くらい泣くまいと誓う。

泣かない理由を「二人のため」にと格好つけた途端に、

濁った涙がついと頬を伝っていった。

遠くの席で誰かが大声で笑う。

先程の若者だろうか、

便乗してようやく自分をあざ笑えたので、

明日から独りの自分にエールをこめて、

せめて、、

すっきりと真っ白く、

背筋を伸ばしてから、

凛として席を立った。

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