濡れた傘はどうすればいいですか。ヌシは答えなかった。屋根に入ってからドアの向こうで2度3度と振ったが傘にはまだずいぶん水滴がついていた。あるいは聞こえなかったのかと思いもう1度問いかけてみてもやはりヌシは黙っていた。案の定。室内に入ると1歩目できちんと磨かれたツルツルの床に傘から雫が垂れた。あーあといったトーンの鳴き声のした天井を見上げた。猫が1匹。やれやれといった表情でコチラを見下ろしていた。落胆の猫は石柱のレリーフの窪みに器用に佇(たたず)んでいた。美しいオッドアイがまるで見定めているかのようで今にも石になりそうだった。傘預かります。いつの間にかヌシの隣りにやたら背の高い老人が立っていた。直感でこの老人はチョコレートが好きであると断定した。
ヌメりとした感触を足の裏に感じた。どうやらいよいよここのヌシと対面するのか。ごくりとツバが喉を通過した。じっとりと腰から上に汗が出る。頭上でカラスが騒ぐと遠くのカラスが呼応した。静寂はないのか。集中力を維持する事にひどく疲れていた。
ヌシを怒らせたの?「ぁあ、、どうやら間違いない」三日月が出ていた。こんな夜でも自然物の神秘で一時的でも心は容易く清らかになっていく。見晴らしのいい高台で夫婦でひそひそとやっていると小さな懐中電灯で照らされた。
ヌシに関する情報はどれもどうやらガセらしいよ。
子供の言う事なので半信半疑であった。
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