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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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濡れた傘はどうすればいいですか?


杉ノ樹は視線の先の影に聞いた。
あの影こそ社長なのだろうか。。
あの日から杉ノ樹は夢の中でいつも社長を探していた。

社長が死んだ “あの日” からそろそろ3ヶ月が経とうとしていた。


この日は「傘」だった。
夢の中で杉ノ樹は何かを持っている。
手の何かをどうするべきか。
杉ノ樹にはわからなかった。
問うてみてもいつも社長は何も教えなかった。
杉ノ樹は自分の選択を非難される。
そんな悪夢だった。


あの時あの場所で、生まれて初めて “死” に直面した。

1人の人間が目の前で生から死へと切り替わる。
“非日常” が突然に展開しあっという間に杉ノ樹はその渦の中心まで一気に巻き込まれていた。
話していた社長が電池の切れた様に動きを止める。
急に横たわるとそのまま逝った。
半分腐ってたんじゃねぇかと思うほどすぐに “ニオイ” がする。
これまで嗅いだ事のないそのクサみがどうやら “死臭” である事を杉ノ樹は理解した。

突然 “非日常” に立たされた杉ノ樹はナニかに押し出されるようにその場を飛び出した。
走り出す。
突然カゲに潜んでしまった日常を引き戻そうと “ソコ” から逃げた。
ついさっきまで社長だった “モノ” を自分からどんなに遠ざけてみても結局ソコから離れる事はできない。
“ソノコト” に気がつくと涙が流れていた。
歩みを緩めて、ようやくソノコトをぼんやりと受入れた時に虎馬は目の奥に現れる。
奴らは杉ノ樹の背中、ちょうど首から肩の辺りにべったりとこびりついた。


濡れた傘はどうすれば?

細長い空間を自分でも驚く程ハキハキとした口調が反響する。しばらく待ってもその問いに社長からの答えはなかった。視線の遥か先で社長は微動だにしなかった。
イキテイルノカ
そもそも本当に社長なのか。万が一視線の先の影が社長でなかったら、、それはこの旅の終わりを意味する。そう頭の奥で何者かが囁いた。
旅?
あるいは聞こえなかったのか、と同じ事をもう1度問いかけてみても自分の声だけがしばらく空しく残響しやがて元の冷たい静寂が空間に充満した。
杉ノ樹は影の方向に静かに歩み出た。踏み出した足からの震動で傘から床に雫が垂れる。よく磨かれた硬質の上に弾かれた雨の粒はより小さな水の玉となっていつまでもそこに残っていた。獣の呻きが杉ノ樹の腹に響いた。天井を見上げると猫のようなものがやれやれと言った表情で見下ろしていた。まるで大きな猫は石柱のレリーフの窪みに器用に佇(たたず)んでいた。美しいオッドアイに杉ノ樹は吸い込まれていた。放心するのをぎりぎり持ちこたえながら石化する自分のイメージを振り払えずに嫌な汗が背中を伝う。その時前方から声がした。
では預かります
いつの間にか影の隣りにやたら袖の長いジャケットを着た老人が湧いていた。見事な口髭は頭髪と同じく綺麗なグレーに自然脱色している。影が動いた。ぴくと隣りの老人にその身を数ミリ寄せると耳許でなにやらつぶやく。老人がこれ以上ない上品さで微笑した。ひと呼吸おくと派手に袖を振り回した。長い袖が空間を飛び回る。光の具合が変化して影の人物が照らされた。その影は社長ではない。振り回される老人の袖は伸び続けやがて猫の石柱を砕いた後で杉ノ樹の首を切った。



杉ノ樹は会社をやめる。

辞表を書いていると虎馬が消えた様な気がした。
ちょうど肩口からこちらをちらちらとうかがってた奴らだ。
ただ、背中の影に隠れているだけなのか。。


そう決断した次の朝、杉ノ樹は夢を見た。

「人魚」だった。


濡れた髪にそっと手を伸ばすとやはり人魚は水に帰って行った。
重力をゆるやかに意識して心地よく今日がスタートする。
この夢をみた朝は決まって目覚めが良くて、
3ヶ月振りのこの日も “同じ” 夢の朝だった。

日常の尻尾がちらり

昨晩は寝る前にエアコンを止めた。
薄く開いた窓から澄んだ風が時折入ると夏掛けからはみ出した膝をすうと撫でる。
ヒンヤりとした空気はもう次の季節のものだった。

夏が終わる。


季節の変わり目になると見る夢。
例の人魚の同じ夢を見て杉ノ樹はどうやら開放されようとしていた。

杉ノ樹が追い求める日常では朝からあちこちで秋っぽい雲が青空を飾っている。
軸が傾いて低くなった太陽はやがて冷えた空気を温めるのか。

杉ノ樹は探していた日常の気配に少し泣いてから、、
軽くなったカラダを勢いよくベットから抜け出した。
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