野良猫が首輪を突き返してきた。昨晩つけてやった赤の鈴付きだった。野良はたまたま通りがかった新聞配達の原付にピョンと飛びつくと慣れた様子でカウルにしがみついた。そして何やら捨て台詞ならぬ “捨て鳴き” を吐くとあっという間に遥か小さくなった。天気予報よりも台風は早く関東地方を抜けた。空気の澄んだ美しい朝だった。勤務が明けるまではまだ1時間あったががそのまま “周り” はヤメて今日の分の精算書類を書くべくいつものファミレスに足を向けた。カバンの中に不要になった物が首輪1つ分増えた。結果としてまた散財となり帰ったら怒られる。街の猫と奥さんの機嫌は今週末の運勢もどうやらあまりよくない方向だろう。そんな事でやや気を重くしながら上着を脱いでみると露出した腕が程良くヒヤリと妙に心地よかった。清潔感のある冷えた空気と人のいない静寂なセメント世界の早朝、そこでただ1人ヒタヒタと歩く、それだけで少し救われた。長距離の大型トラックが通り過ぎるのを待って信号を無視して交差点を渡る。
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