鼻からすうと息が抜けた。穏やかなリズムでたて始めた寝息を確認してそっとカレの首の下の左腕を枕に差し替えた。眠りの淵のカレを呼び覚まさぬよう細心に身体の芯に力を入れると分厚いベットを脱出した。素足が絨毯に触れる。ここからは高級な長い毛足が深く全ての音を吸い込んでくれる。窓際のデスクから静かな点滅でメールの着信を知らせている携帯とそろそろ読み終える文庫本を手に持った。バスルームに入る前にベットサイドの電気をギリギリまでしぼると部屋に充満するしんとした空気がカレをクィーンサイズのベットごと包み込む。深夜に降り始める雪のようにきっと明日の朝、カーテンが開かれるまで静寂がやさしく降り積もってゆく。ようやくカレに訪れた平穏にモリノネコは胸が満たされた。つくづくカレを好きなんだろうと思った。
俳句をつくらなきゃいけないから。と言うと「じゃウチでやれば」と彼は返してきた。でも。云々と歯切れが悪い雰囲気に業を煮やしたのかしばらくの沈黙の後「あそうだ俺も俳句をつくらなきゃ」と聞こえたかと思うと通話が切れた。
ハカセというあだ名だった同級生とばったり魚売場で出会った。さぁレジにと向かう途中で急に魚が見たくなったので鮮魚コーナーへと引き返した。するとタコのパックをひとつひとつ吟味する男がいた。ハカセだった。
橋を渡るとそこに新しい事が待っている。
鳩に着いて来られる夢を見た。1羽2羽、4羽8羽、16羽と倍々に鳩は増え最後何千という平和の象徴について来られるという悪夢に寝汗をたっぷりとかかされて目が覚めた。
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