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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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胸が詰まってきた。。
中澤茶之助は渋谷に向かっている。
妙な緊張感が鳩尾の辺りをむかむかさせた。


前回この街を訪れたのはいつだったか、、記憶がない。
かつて思春期の居場所にはずいぶんご無沙汰していた。
それでぐつぐつと胸の奥が疼いている。


11月に入ってすぐ中澤茶之助はメールを1通受信した。
携帯電話のメモリが忘れていた過去を引っ張り出す。
マコト先輩からだった。
文面の雰囲気は当時と変わっていない。
8年振りだった。
世話になった先輩から呼びかけに、
中澤茶之助は今、かつての地に向かっている。


中澤茶之助を乗せたJR山手線は定刻通り渋谷駅に到着した。

ホームに滑り込むと緩やかにカーブしながら車両は停車する。
一瞬の間をおいてドアがいっせいに開くと乗客のほとんどが降りて、
それより少し多くの乗客が車両を満たした。
中澤茶之助も流れにまかせてホームへと降り立つ。
改札への階段を目指しながら携帯の電源を入れた。
連結部分が定位置の中澤茶之助は車内では常に電源は切ってある。
ホームの最前、新宿寄りの階段を1歩下りたとき時刻は18:42であった。
ゆっくりと下る人の流れ。
ようやく改札が見えると懐かしさが膨張した。
変わらぬハチ公口の小さな “くの字改札” を抜ける。
中澤茶之助はとうにはじまっている夜の渋谷に1歩踏み出した。
出口付近で鈍感に溜(た)まる連中をすり抜けて夜空の下に出る。
駅前はこの日も異様なエネルギーに満ちていた。
横断を待機する者と待ち合わせをする者が入り混じる。
雑踏の隙間を縫いながら中澤茶之助はスクランブル交差点を目指した。
太陽が沈んで風がかわっている。
日だまりが消えてしまうと
吹抜ける寒さが厳しい季節の到来を体感させた。
こうしてまた1年を締めくくる時季が来ている。
見上げぬとも見慣れぬネオンが視界に入ってきた。
テレビが増えている。
あの頃から見慣れた広告との混在する新たな光景が否応もない時の流れを感傷させた。


最前列、道路まで1歩の場所まで抜けると仲澤茶之助は雑に巻いたマフラーを巻き直した。
その時、声を聞いた。

しゃ... ーじど... しゃ...

偶然のタイミングでイヤホンを越えてくる。
曲と曲の僅かなブランクをついてその声は鼓膜に触れた。

仲澤茶之助はイヤホンを外した。
買ったばかりの Irever を停止する。
凝(こ)った耳穴がヒヤりと空気に晒(さら)された。

ーじどーしゃ  けーじどーしゃ

軽自動車。。“声” をハッキリと聞き取った。
そして、ぱちんと信号が変わる。
ギリギリで交差点に飛び込んだ最後の1台が早まる横断者を寸前でかわして。“時間” が切り替わった。車から人の時間になってようやく待ちわびた雑踏が動き出す。
仲澤茶之助は端に寄ってその青信号をやり過ごした。
広い交差点の周囲にぐるりと溜(た)まっていた “人の気(け)” が行き交う群衆同士に引っ張られ中央でざわざわと入り混じる。
やがて一斉に点滅する信号。
追い立てられる人々。
スクランブル交差点は一瞬だけ静寂し再び “車の時間” に切り替わった。道路にエンジン音が轟くと例の声も聞こえだす。しばらく聞き耳を立てていると中澤茶之助は法則に気がついた。どうやら、、1番手前の車線を車が通過するのに合わせて「軽自動車」と呟(つぶや)いている、、 “何者かが”。。これもこれもと品定めするかの様に連呼されるわけだが実際は17台通過して軽自動車は4台だけだった。
仲澤茶之助が最後の「けーじどーしゃ」を聞いてタクシーが通過する。
(だから、ちがうっつーの、、)
ふふとツッコミながら仲澤茶之助は横断の体勢を整える。
その時、胸の電話がケタタマしく着信を知らせた。
そして信号が変わる。
メールの送り主がマコト先輩である事だけを確認すると周囲とともに動き出した。
2歩3歩と歩き出してから軽自動車の “声” がしていた辺りをちらと振り返る。

ナマズがいた。

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Edit by : Tobio忍者ブログ│[PR]