「チチ チチチチ」
声がイヤホン越しに滑り込む。
曲と曲の切れ間の三秒に微かな電波をキャッチした。
差していた傘を下げてみると、案の定、雨はほぼ止んでいる。
インイヤーのイヤホンを外すと街の音が侵入した。
高い位置で髪を一つに束ねると、
雨上がりの湿った風にのった喧騒がむき出しの耳の入口で産毛をさわさわと撫でてゆく。
遠くに見えていた晴天がずいぶん近づいてはいたが、
頭のすぐ上の空はまだずっしりと厚い雲に覆われていた。
繋いでいる左手を離して屈む。
レインコートの首のボタンを二つ外しフードを脱がせてやった。
そのまま自分の傘を閉じてから、イヤホンを巻き付けて携帯電話をバックに戻す。
再び息子の手を引いて歩き出した。
「ォォ」
五歳の息子を唸らせたのは虹だった。
平日の夕前、向こう岸に渡りたい大勢と信号が変わるのを待っている。
そこにいるほぼ全員が空を見上げビルにかかる稀な自然現象に魅入っていた。
前回を振り返れない程久しぶりに虹を見上げていた。
ずいぶん細く感じる。
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