「どう、それ珍しいだろぉ」
店先に見慣れぬものが紛れていた。
雨っこ
入れられている段ボールのふたにそう書かれてあった。
先程までの長雨にもそのままさらされていたのだろうか。
その箱だけ全体がびっしょりと濡れていた。
止んだか、そう言って八百屋のおじさんは空を仰ぐ。
空全体に広がる雲の所々に白みが差していた。
「もう今日迄だろな、お姉さん、そいつ持ってってよ」
そう言いながら散らばる乾いた段ボールの切れ端を一枚拾うと、
どうぞご自由に、と赤のマジックで乱暴に書いて、
そのまま雨っこの箱に投げ込んだ。
いったいこれは何ですか、私の声に電話の呼び鈴がかぶさってしまう。
懐かしい音にけたたましく呼ばれ、店主はほいほいと奥へと消えた。
私はもう一度丁寧に自分の記憶を手繰る。
雨っこが自分の辞書にはないという事を確信した。
見据える目の前の球状に好奇の心が手を招いている。
店の奥からおじさんの大きな笑い声が聞こえた。
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