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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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沖縄からの帰りの便にぎりぎり滑り込んだところで、
野山美江子は夢から醒めた。

世間の大半の者にとっては大型連休の最終日であり、野山美江子にとってはようやくの完全オフである。生活の雑事すら最低限で済みそうな、まったく予定のない真っ白い一日が今日だった。

野山美江子のジンクスは、朝、起こされることなく自然と眠りから目が覚めたら、その日は一日調子が良いばかりか、最近では運もいいという傾向にある。

楽しみな一日がスタートした。


瞼はまだ閉じたまま、
横向きややうつ伏せの体勢から仰向けになりベットの中央へもぞもぞと寝相を正す。
いつのまにか細く丸めて抱いていた綿毛布を広げようとぐにゃぐにゃ動いた。
足の指も使って全身を包み直す。
頭まですっぽりと覆ってから野山美江子は開始と呟いた。
ひっそりと、でも気持ち高らかに一日の始まりを宣言してみるのである。

ぴんと広げた毛布を乱さぬように、その下でもう一度うつ伏せになると顔を枕に押しつけた。昨日十分に保存した天日がまだ残っている。石鹸のシャンプーの微かな匂いを一緒に吸い込んでは心地良く安心するのだった。目覚まし時計を探ろうと右腕だけ毛布から出してベットの脇へと伸ばす。指先が目覚ましに難なく触れて、そこでようやく薄目を開けた。毛布の中に引っ張り込んだ時計の時刻を読む。鳴り出すまでまだ少し時間があった。

空はもう明るいんだ

カーテンの上とか下とか隙間から、
朝が部屋に漏れ入っているのだろう、
薄い毛布が微かに明るみを透かしている。

意識も眠りから完全に覚醒している事を確認すると、
野山美江子はアラームを握ったまま、
胸の位置で両手を組んでから、
呼吸を深く長く整えた。
そして、死ぬ。

わざと二度寝のこの時、野山美江子はツタンカーメン的な姿をいつもイメージした。サバク、エジプト、ピラミッド、神秘のベットに自分を埋葬する。高貴に安らかに、できるだけ姿勢を良くして、いつ誰に棺を開けられても恥ずかしくないように準備した。わくわくどきどきと、間もなくぴぴぴぴと起こされるのを待っている。

目を閉じて、、

ただじっとしているだけの贅沢な時間に、
今朝はオキナワのユメとミズハラサキコがゆっくりと瞼の裏に再生されるのだった。



東京に帰る飛行機に危うく乗り遅れそうになるのというのがこの夢の決まった結末である。原因もいつも「迷い」だった。私は夢の中のあの土産物屋ではいつもなぜか優柔不断なのである。「へえ アンタがねぇ」そう言ってサキコが例の表情でニヤついたのが、つい一週間前のリアルな出来事だった。巷のカレンダー、大抵の人にとってのゴールデンウィークの開始の日である。場所は熊だった。わりと久しぶりのお風呂屋の後、二人のお気に入りの居酒屋、熊大将に自然と流れていったのである。サキコは酔うとどんどん猫になった。それが私の中のアイツの「例の表情」である。喉が鳴りだしてすり寄りながらゆっくりと目は座ってくるのだった。その例のサキコが出るとそろそろ宴もお開きの頃合いなのである。
ミズハラサキコとは十年来の仲だった。十代を不器用に駆け抜けた無二の親友である。あの日、熊では恋愛系の愚痴系の話題で盛り上がり、ふと、会話の隙間に挟まった泡盛的な単語から、そう言えばと最近よく見る沖縄の夢の話をした。「で」アンタは何と何を迷ってるのよとサキコは言う。それがあの時サキコの投げてきた最後のまともなボールだった。それがわからない、と私は真面目に言ってみるのだがサキコはすでに猫なのである。アノコはナマっちょろい細腕でやわらかくお銚子を倒しながらそのままつっ伏すと、やがてくーくーと寝息をかきだした。


 私はあの土産物屋で何を迷っているのだろう

 そして いつも東京に帰れてしまう


野山美江子はまだ一度も沖縄に行った事がない。



予定の時刻に、
きっちりとアラームに蘇生されて、
ようやくベットから起き出して野山美江子は月を見つめている。
きっちりの半月が始まったばかりの今日の青空に浮いていた。

朝の月は雲と同じ白でである。

小さくて遠くて、完全に脇役だった。

まもなく五時になる。


野山美江子はまだ半分カーテンをしたままで、
新しく始まったばかりの今日の外の様子を見ていた。
予報では今日も快晴である。
視線を道路の向こうに送った。
前のマンションとはベランダで相対している。
こっちは築二十年であっちは去年新築だった。
こっちは陽当たりが良くってあっちは北向きである。
どっちが高いのか、野山美江子はいつもそれが知りたかった。


水着。

向かいの一つ下の階のベランダに、
飾り気のない男児用の海パンが一枚、干されていた。


南国。

キタ沖縄か、、いや海外だな現代っ子 初か?
野山美江子は勝手に想像を膨らませ、焼き過ぎの男児をほくそ笑んだ。

連休中の好天も最終日までどうやらもちそうである。

野山美江子は再び空へと視線を上げた。
最上階で一番端の部屋だけ電気が点いている。
あそこの住人は朝が早いのか夜が遅いのか、
仕事か遊びか男か女か、
よい連休を過ごしたのかな、、

マンションの全体に視線を戻しながら、
この小さなひと部屋づつにあるはずの、
ここからは見えない個のことを想うと、
野山美江子はそれだけでも少し楽しかった。

なんだかほんのりあたたかい気持ちになっている、

プラス安心に似た元気っぽい意欲。


単純

自分を笑い、両方ともカーテンを丁寧に丸めしっかりとタッセルで留めた。

レースのカーテンを引いて部屋に振り返る。

少し暗めの部屋がまだ起き抜けの目に丁度良かった。

ベットに行き枕を整える。

綿毛布を畳みながら部屋を見回して、食卓の携帯が目に入った。

野山美江子は手を止める。



「いつでも連絡を取れる様にしておけ」

会社から言われていた。

近づいて電源を切ってみる。

ログアウトしてゆく画面を最後まで見届けて、

携帯電話をやさしく折り曲げた。


亡骸。


どうしても、

それがしたくなって、

やってやったぜとばかりに、

携帯を握る右手をそのまま突き上げた。

その時、野山美江子は屈強男子の顔をする。


朝から何も強制のない一日、野山美江子の祝日が開始した。


こみ上げる悦びで叫び出したい衝動を抑えながら、

とりあえず、

きゃと、女子っぽく、、

メイクしたてのベットにダイブする。


不意に出たガラじゃない自分に、

一応、

こらこらとツっこんでから、

押しつけた枕の中で、

野山美江子はいつまでも、

ひとりでにやにやと笑っていた。

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