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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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「わんだぁってなに」

わらわは童児に問うてみた。
時計に目をやるとボーイフレンドはまだ来そうにない時刻である。
突然現れたこのもの達に関わってみようと決め、わらわはおそるおそるテリトリーに踏み込んで行った。
すると、周囲にいた他の待ち人が一人一人と消えてゆく。

こいつのなまえだよ
童児はさらりと答えた。
どうやら警戒しているのはこちらばかりのようである。
そのような事は過去に二度三度とボーイフレンドにも指摘された。
この時代のおのこどもは老なり若なり大層緩い。

わらわは今、絹白の大きな犬と二メートルの距離で対面していた。
そしてこの犬の名がワンダーである事までが明らかである。
犬の背にはさっきから童児が一人股がっていた。
これから何が起こるのか、わらわには皆目見当がつかないでいる。

童児はじっとこちらを見ていた。
わらわと目が合うと、
それを待っていたかのように童児は犬の耳を荒々しくつかむ。
ワンダーという名前のその犬は犬らしい面長の顔の両サイドに大きな耳を垂らしていた。
童児はそのままするすると両耳を持ち上げる。
わらわは奥の歯を食い縛ばった。
脱力系だったワンダーの表情が変わる。
口はそのままで目尻だけ上がって妙な面となった。

「なんとしても、、」

笑うわけにはいかない、そんなくっきりとした意思がわらわを支配する。

「これはなんだ」

分析を試みると、
それが姉心なのか母心なのか、
いや、先輩風なのか子供嫌いなのか、
とにかく、ある種の負けん気のような、
甘やかしてはならぬという教育心のような、
調子に乗らせまいとするライバル心のような、、
曖昧な実の不明瞭な内心にわらわは翻弄されていた。

嗚呼、、
軽い目眩の中に居る。
わらわは義務感と正義感とあとなんであろう、とにかく今のわらわにはまだ説明不可能なとらえ所のない思いであった。頑とした衝動が深い部分の本能に近い場所から命じている。わらわは唇をきゆと結んでいた。わらわはこらえている。わらわの中に宿る見えざる力に手綱を引かれなんとか無表情を維持していた。

しばらくしてようやくワンダーの耳は下ろされた。
童児はふんと言った表情をあからさまにわらわに向けている。
勝った。
心で盛大に勝鬨をあげながらすっきりと平然をつくる。
ワンダーはその間じっとしていた。
こやつにとって童児は主人なのか子供なのか分からない。
わらわには童児の振る舞いが親身の延長なのか征服の証なのかが読めなかった。
天晴なやつ。
言わゆる幼児特有の乱暴な行為にもワンダーという犬はどっしりと無抵抗にされるがままなのであった。


「ん 犬?」

ふと何かが引っかかり、
わらわはワンダーをあらためて観察する。
見た所、童児の体重は二、三十キロ、
軽々と四肢で立ち尽くす白い獣がふつふつとわらわに違和感を感じさせた。
そんな重荷を平然と背負っていられる犬など果たしているのだろうか。
不意に湧いた疑問はむくむくと容赦なく成長した。


「じゃ、いったい」

この巨大な白い毛むくじゃらはなんなんだ、、
見た目に翻弄されてはならぬ、わらわは何度も唱えていた。

そうしてわらわは今日もまたダウトの深みへとハマっていくのであった。

がぁーと鼻の奥で叫んでから、
こめかみの辺りでがしがしと頭をかきむしる気になってみる。

わらわはダウトな気をそらすべく時計に目をやった。
そろそろボーイフレンドが来そうないい時刻である。

ボーイフレンド。。



ワン

ワンダーが急に吠えた。
びくとして、危うく舌を噛みそうになる。


「やはり犬。。」


だぁー
すぐさま童児が続けて発っした。
言いながら童児は大袈裟にアゴを突き出している。
両肘を肩の高さまで上げる奇妙なポーズをつくっていた。
わらわの方をちらちらと見ている。

童児はぺんとワンダーの頭をはたいた。
ワン
犬が吠える。

ワン。

だぁー。。


「およしなさい、なんだそれはそなたのじいさまのマネか」

ちげーよ、ベルポランしょうぐんだよ

「なに、、しょうぐん?」

再び犬を吠えさせると、童児はだぁーと合わせてみせた。
より大袈裟にキめる。
おそらくわらわの為により解りやすく調整をした。


「なにかを嘆いているのか?」

はぁ?
童児は遠慮なくわらわに怒りの目を向ける。
すぐに心からのがっかりを表情に滲ませた。
わらわは輩との距離を詰める。
下らないギャグのために小突かれ続けるワンダーに手を伸ばした。
息のかかるところまで近づいてその迫力がわらわに緊張させる。
犬は何かをさとったのか、
その立派な首を垂れるとわらわに頭を撫でさせた。


わん

ぉお
犬が鳴き童児は目を丸くしている。
様子を見下ろしながら小さくひとつ唸っていた。
背伸びしてもう一度撫でる。
ワンダーは元気よく鳴いた。

わん

なぁんだそれでもいいのか
ふくれていた童児の頬がしぼむ。
童児が嬉しそうにごしごしと続けて撫でるので犬は二度鳴いた。
ワンダーも嬉しげである。


「これからはそうするとよい」

わらわの提言など夢中の童児には届かなかった。
早速二人してギャグのあらたなタイミングを確かめている。

わらわは再び距離をとった。
そろりと後ずさると頬に一滴の水が触れる。


「雨かな」

見上げると空は晴れていた。
そしておでこにまたひと雫。


あ、雨だ

童児が大声を出すとワンダーが嬉しそうに呼応した。



「ひからびたとかげ?」


そう
見に行くんだよ
童児は目を輝かせている。
そして続けた。

ドアの所で
今朝
干からびてたんだよ
だから雨でそれがモドるだろ

それを見に行くんだよ
そう一気に言ってしまうと、
童児は小さく左の手の平をわらわに向ける。


おまえも


わらわはわざと間を空けた。
童児はみるみる照れてゆく。


じゃいいや
と言い出す寸前に童児の手につかまった。


「ついて行こうぞ」

童児にぐいと引かれわらわのカラダが宙を舞う。
次の間には犬の背に乗っていた。
見た目より力が強い。

童児との距離が数センチになった。

わらわはあたふたとバランスを取る振りをする。

そして何かを誤摩化そうと童児に聞いていた。


「このコは何?」


だからワンダー

言ってから童児は少し笑う。
もう一度犬を撫でながら、
童児は完璧なタイミングでなんとか将軍の真似をした。


「だからそれわからん」

わらわがそう言うと、
ひと鳴きしたワンダーが走り出す。
急発進にわらわは童児に寄りかかった。
一瞬の接触。
童児はしかと受け止めた。
ぴりと硬直。
わらわはすぐにカラダを揺り戻し犬の首元にしがみついた。

ワンダーはぴょんぴょんとエスカレーターを駆け上がる。振り返るとオープンエアの地下に人が戻っていた。大勢が再び待ち合わせている。ちらりとボーイフレンドを見た気がした。ちらりと、たしかあんな顔である。。外は雨だった。雨なのに空は晴れている。なんとも不思議な天気だった。それはどこかわくわくとしたこれから起こる未来の象徴のようである。



おまえ、学校どこ?
背中から童児が乱暴に質問を投げかけた。

わらわが落ちぬように気を配りながら、
わらわの背に触れる度にどうせ頬を赤らめているくせに、
そんな事を誤摩化そうといらぬ事を聞いてくる。


「この時代のおのこどもは。。」

だれもかれもが不器用であった。
太陽はさんさんと照っているのに極小の雨粒が程良くわらわの周囲を冷やす。ワンダーの純白の全身がキラキラと反射していた。通りすがりの大人達は一様にわらわ達にやさしい微笑みを向けている。そして通りすがりの子供達は羨望とねたみの視線を遠慮なくぶつけてきた。
虹があちこちに出始めている。いくつもの虹を飛び越えてワンダーはどんどん加速した。雨を切る風が程良い潤いでわらわの肌を撫でてゆく。わらわは首を抱いた手に力を込めた。



ねぇ、おまえ何年?


わらわは童児の問いには答えてやらずに、

干からびた蜥蜴についてをあれこれと想っている。


にやとして、

疾走するワンダーの喉をくすぐってやった。



とくとくと鼓動が早くなる。

何もかもが前に進んでいた。

とびきり大きな虹を越える。

鳥の群れを抜かしてしまうと、

体感のスピードが一気に減少した。


少しの睡魔に包まれる。


ゆっくりとした脱力をおぼえながら、

ワンダーに全てを委ねてしまう寸前に、

しっとりと濡れたその首筋にわらわはそっと口づけた。
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Edit by : Tobio忍者ブログ│[PR]