「わんだー?」
時計を見て、
彼がまだ来そうにない事を確認してから私は男児に問うてみる。
コイツのなまえだよ
男児はあっさりとそう言うと長く垂れた両耳を小さな手で掴むとするすると持ち上げた。
ワンダーはじっとしている。
主人(あるじ)なのだか子供なのだかの乱暴にもどっしりとされるがままであった。
私は目の前の状況を分析するのをヤメて出来事を巻き戻してみる。
私は待ち合わせ場所で彼を待っている。
何やらを感じて文庫本から目を上げると犬がいた。
身体全体が白く耳と鼻だけ黒いすらりとしたやつである。
かなり大きなヤツがじっと私を見据えていた。
ついぞ、本の中では私と同い年の主人公が転職先でちょっといいなと思っていた同級生に出会ったのだが、
そんな素敵な小事はぶっ飛んだ。
私は目を下げずにしおりを差して文庫を閉じた。
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