肘の内側に小さなしこりができていた。しばらくしてかゆみが出たので。洋平は虫にでも刺されたのかと思いとりあえず市販の塗り薬を使い始めた。しかりスースーするばかりで全く効果がなかった。肘のしこりに痛みはなかったが一定の間隔でどうしようもないかゆさが襲ってきた。放っとけば2、3日で治るとの思いは浅はかであった。かゆみは日に日に少しづつ強くなる。尋常じゃないかゆさに洋平は心配した。皮下で何かが起こっている、そう思い始めた。来週は必ず医者に診せようと決めた週末、朝ふとしこりのある部分を見ると発芽していた。かいわれ大根を連想させる様な弱々しい丸い葉が2枚、ひょっこり顔を出していた。そしてかゆみの地獄から開放された喜びと引き換えに突然肘に生えた芽への戸惑いがふつふつと洋平の頭に持ち上がった。とりあえず、と朝食の準備を始めるとドアチャイムが鳴った。インターフォンで隣りに越して来たと名乗る男はウィザートだった。今、なぜかテーブルを挟んで洋平の目の前に座っている。せっかく休みの朝食用にと買っておいたデニッシュとベーグルをぺろりと平らげられて少し緊張が解けたのと引き換えに洋平はなんともやるせない思いも抱いていた。そして空腹にせめてとコーヒーをすすった。ウィザードは何かをしゃべるでもなくただじっとそこに座っていた。
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