「。。この夏一番の暑さです」
この文句が耳に入るのは今朝から八度目か九度目であった。
どこそこでは、という前の部分は毎度聞こえない。
見上げると屋根のない駅を周囲の大木の枝がせり出しては程良く駅舎を覆っていた。
ここはどこだ
快速電車が予告なくホームに滑り込んで来る。
構内では少し前からアナウンスがなされていなかった。
減速するそぶりがないのでそれが各停ではない事がわかる。
走り抜けるステンレスはどんどん加速して、できた暴風が束の間に両の耳を支配した。
目の前を過ぎて行く各車両が決まった角度で木漏れの太陽を鈍く反射する。
最高速度となった最後の車両を見送るとそのままこの場の音の波も全て引っ張られていった。
息継ぎのような刹那の静寂。
そして、すぐにじいじいと油蝉が再び喚き出し、
文字通りの熱唱が森の駅全体に降り注いでは耳奥へと侵入し脳の温度をぴくりと上げた。
ようやく夏蝉が耳に馴染んでくる頃、
行楽な調子の高音で警笛が近づいて来ているのに気づく。
視線を下げるとモンキートレインがゆっくりとホームに入ってきた。
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