「どうやらここだな」
ハカセはメガネを押し上げた。ハカセと言っても実際は博士ではないし、押し上げたのはメガネというあだ名のクラスメートをではなく実際の眼鏡をである。
「その説明いるかしら」編集者であるワタシが横から口を挟んだ。
「読者は多岐にわたるものです」作家先生であるワタシはそれっぽい言葉で煙に巻く。
「でしたら最初から眼鏡と漢字で書かれては」そう来たかと思いながら本日三杯目のコーヒーのおかわりを貰いに席を立った。つまり息を抜きに腰を上げて目線を変える。
昼下がりの店内は落ち着いていた。
三人の新旧のウエイトレスがささやかな雑談をしいる。
カトラリーセットを一つ一つ小さなバスケットに揃えながら屈託のない笑顔が順番に時に一斉にこぼれた。
抑えた声のトーンと下げ気味の目線に「仕事中」の意識が現れているのが健気で愉快である。
そして、店長登場でクモの子を散らしたように、
そして、店長登場でクモの子を散らしたように、、二度、予言を頭で巡らせてみた。
店長は現れない。ちっ。
のほほんという妙な単語がぴったりくる平日の午後にぽっかりできた空間だった。
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