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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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「やんだな」

被っていた帽子をずると引き下ろすと老人は独り言の様に呟いた。
短いツバの付いた季節外れのニット帽が丁寧に畳まれて老人の手の中に収まっていく。
老人は短く刈り込んだ髪に触れると何かを確かめる様にじょりじょりと何度も撫でた。
ズレてきた木漏れ日が眩しい。
尻を滑らせ老人により対峙した。
初夏を思わせる強い陽射しがまだ五月である事を頭で確認させる。
平日の市民公園はほとんど人の気なく、
ここだけぴたりと時間が停止してるようだった。

引き続き老人を観察する。
微動を始めた老人の膝の上で猫が目を覚ました。
老人はおでこにひたひたと触れながら小さく頷いている。
猫は音もなく主人から飛び降りた。
でっか 猫のあまりの大きさにボクは思わず声をもらす。
大猫はボクの声に耳をピクりとさせてから老人の足下で豪快に伸びをした。
「前ぶれ」
猫に気を取られていると老人のつぶやきが耳に届く。
前ぶれ?

目が合った。
微かな笑みを含みながら老人は初めてボクに目を合わせる。
固まるボクを尻目に老人はベンチから腰を上げた。
ゆっくりと立ち上がり静止している。
ジョギングするランナーが久しぶりに遠くを通過した。

ふうと深く息を吐いてから老人は右手を上げる。
お先にといった感じでボクの前をゆっくりと通過した。
大猫がその後をしなやかに付いて行く。

木陰のベンチからボクは独りで老人と猫のその様子をじっと見ていた。
明るい場所へと出る寸前に老人は立ち止まりうすく笑みを浮かべているように見える。
老人はカバンから小さな瓶を取り出した。
栓を外すと手の平に瓶を振る。
ザラザラとラムネの様なモノが出てきた。
二粒だけ手に乗せて後は瓶に戻す。
一粒猫に食べさせてからもう一つは自分の口に放り込んだ。
陰から一歩踏み出した老人と猫は歩くスピードが上がっている。
やがて一人と一匹が見えなくなるとボクはベンチに座り直した。
遠くを見ると丘の上の風車が全て止まっている。
それはこれ迄に一度も見た事のない異様な光景だった。

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Edit by : Tobio忍者ブログ│[PR]