03_02.4

池までの道すがらで豊橋タモツは空き缶を十一本拾った。
歩くのは久しぶりである。
桜ってけっこうあちこちにあるな、豊橋タモツはそう思った。
鼻先をヒラヒラと舞う小さなハート形をボクシングっぽく掴もうとして空振り。
じいちゃんの声がした。
「コーエンいってきたんか」
じいちゃんの声に振り返ると、
思ったよりもまだずいぶん遠かった。
早朝は声がよく届く。
じいちゃんの自転車は豊橋タモツの歩きより遅かった。
神業的にスローに自転車を走らせる。
池からの帰りに拾った四本を加えた十五本の空き缶の入ったビニール袋を軽く上げた。
豊橋タモツの方から声を送る事はまだできなかった。