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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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 イカが釣れます


送り主は母だった。

“しょっちゅう” と “たまに” の間の頻度でメールをよこす。

他人行儀で簡潔な文は、

意味深なような、意味不明なような、

名著からの引用か名作の台詞か、ただの思いつきなのか。。

彼女の “本当の” 性格を知らないと困惑するだろう内容のメールである。

場合よっては心配もする。


イタズラで出鱈目なコドモっぽさは年々増加の傾向であるが、

“今のところ” は害もなく、

健在である事を知れるので、まぁ助かる。


たまには返信してやろうかとも思ったが、

メールで無理問答する母娘の図は壮観できず、

会社から直接実家に帰る事にした。


いいキッカケだとおもったんだと思う。


「おふざけが過ぎますよミリコさん」

ピシャリと言ってやろうと大丸で母の好物“栃屋の笹揚げ”を2箱買った。


地元は久しぶりだ。

総武線も久しぶりだ。


川を2本越えた時、急激に地元感がよみがえり変に元気が出てきた。

陽はすっかりと長くなり18時を過ぎてもなお、

空はかろうじてまだ明るかった。

電車が鉄橋に入ると震動が軽くなる。

今日最後のオレンジ色の地平線に向かって川がのびるのを見て、

元カレの事を思い出した。


、、そして、すぐに打ち消すフリをする。


「ミリコさん、今日仕事 ?」

とこの電車でウチに通って来たカレを想像する自分を思い出す。


、、そして、すぐに打ち消すフリをする。


あの頃は若かったと今は本気で思える自分を笑う。

きひひと心で笑う。


カレの声を思い出せなかった。

カレの歯並びを思い出せなかった。

カレの掌の湿った感触を思い出せなかった。

共有していたカレのコンプレックスはすっかり忘れていた。

そう言えば、

社会に出てすぐ “別れの気配” が2人に漂っていた時は、

あんなに会う事を拒んだのに、

今は、例えば、、街でばったり会ったりしても、それはそれで面白い。

そんな風に思っているな。

多分、、

会いたいの?

車窓の景色が懐かしくて、ついぞ浮かぶそんな事。


、、打ち消すフリをする。


イカだよイカ、、と言い聞かせても、

ノスタルジーという名の麻薬に蝕まれている頭は、

その心地よい郷愁の脱衣所へと意識をぐいぐい引き込んでゆく。

こんな時、、

カタオカサチコが目の前にいたら「恋をしろ」と鼻先を指差してくるであろう。


、、アンタもな、、するさ、、なにさ、、なんさ、、にゃろ、、みゃろ、、、


罵り合い、掴み合い、

引っ掻き合って、首締め合って、

柿の種投げつけて、

ピスタチオ飛ばし合って、

号泣して、爆笑して、ものまねして、

芝居が始まって、、

卒業公演のワンシーンを熱演し合ったら結局乾杯、、

我々のちまちました事情などには無関心に、

夜はいつだって坦々と更けてゆく。


“お悩み語り語られの仲”

唯一無二の古友がひょこひょこ駆け抜けた。

彼女は今日から休暇をとっている。

毎日会っているのに顔を見たくなった。


「私も実家に帰らせていただきました」


帰って来たら三つ指ついて言ってやろう、、

口許が緩むのをこらえていると、

身憶えのある感覚で黄色い電車は駅に滑り込んだ。

しゅうという音のあとでガタンと扉が開きホームに降りる。



生還。



。。間近。。(家につくまでが遠足です)って誰の言葉だ?

小学校の校長か教頭か、担任か。。うむうむ。。なかなかいい言葉。


「キノピーの家でお酒を買って行こう」


と不意に思いつき、オーと心でこぶしを突き上げてみる。

同級生の実家のローソン、元木ノ内酒店をルートに加え、

笹揚げに合う日本酒をおじさんにオマケしてもらう決意をする。


ずいぶん立派になった改札を足早の人に紛れて抜けた。

光から闇へ。

なんとなくステージから客席へ。。


広い階段を下りると商店街の灯がそこにあった。

夕過ぎの雑踏の顔を破廉恥に映す事なく、

変わらずやわらかくそこにあった。

静かなやさしい空気にじんわりと包まれながら、

私は“私の場所だった”場所に文字通り踊る様にすぃと踏み込んでいった。
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Edit by : Tobio忍者ブログ│[PR]