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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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音のない部屋。



時田登希夫は目を覚まし立ち上がった。

見回してみる。


入口のない部屋。

高くもない低くもない、

寒くもない暑くもない、

狭くもない広くもない、

いつもの “ハコ” だった。



気がつくと待機室からいつもココに移されている。

痛みもなく記憶もなく。



間もなく、最後の被験が開始する。



時田登希夫は部屋の隅に座ろうとして、

今日はやめた。

最初で最後、中央で大の字に寝転んでみた。

ばたりと大袈裟に倒れ込むと、

科学進化のされた南極海綿が抱きとめる。

52キロ。

身長の割に痩せ過ぎの衝撃は、

床に敷き詰められた人工生物によって分散し、

細かな波となって壁に伝わると静かに吸収された。

充満するエアが震えて潮がかすかに薫る。

四方の壁も同じ “素材” だった。



見上げるとぼんやりと白い光。

天井もまた同じ “ヤツ” のはず。

光る “タイプ” か、

照明を透かしているのか。


いずれにせよ、

眩しくもなく暗くもない。





  4才の時はなぜ泣かなかった


初めてココに入れられた時だ。


  14才の今はなぜ泣いている


10年通ったココとも今日でおサラバ。


  嬉しいだろ


涙 ?


  寂しいんだろ


なみだ。


  落ちる


泣く ?


  落とさないんだろ


なく。



ふと。

最近エヴァで知ったベートーベンを口ずさんでみると、

水中でハミングをする様に口の中で共鳴した声が、

くぐもって頭蓋に曖昧に反響した。




あらかじめ “発狂する自分” を想像しておく。



防衛本能を確認すると、

時田登希夫は目を閉じた。

光も無くす。

瞼に押されて溢れた涙が頬を伝い海に還っていった。



  コッコッコッコッ。。


“無” に時を刻んでみる。


  今。。午後4時を回った位だろうか


1番好きな時間。


  この時間は外にいたいんだ


音も光もない世界。


  出せよ


“発狂する自分” を嘲笑する。

やがて意識の扉も閉鎖するだろう。


  夕方が好きなんだ




突然、

プツ と電源の入る音がすると、

デジタルの声が静寂の世界のその中心に届けられた。


「じゃ、トキオ君、、始めるわ」


“よくできた音” が話しかける。

何もない空間でやさしい波長が無防備の全身を包み込む。


 (じゃ。。ときおくん。。はじめるわ)


時田登希夫は大きく両目を見開いた。

ゆっくりと天井からの光は落ちていた。

それだけ確認すると、

緊張した筋肉を弛緩させ両の瞼をしっかりと合わせた。






電極を差し込まれた右耳の裏の奥がムズりと微動する。

時田登希夫は射精した。

魂のない海綿が虚脱を受け入れる。波。潮。


  夕方の風はさ。。


閉じてゆく意識の途中で時田登希夫は真面目だった。

まみれてしまった汚辱から挽回する様にどこまでもシンシだった。


  すぐに。。
 
  太陽はさ。。
 
  落ちちゃうけ。。


  いつか僕と一緒。。




すぅと長い安息の線が鼻から抜ける。


時田登希夫の最後の被験は開始した。
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