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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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瓜がなっていた。



20分差でセットしてある、

2つ目のアラームを止めてカラダを起こす。

最初に自分に厳しくする場面を乗り越えて、

無事に洋平の “今日” が始まった。


アタマを覚ますためにカーテンを開けに立つ。


うっすらと朝の透かしに立つと洋平は心に唱える。


 さぁみんな起きろ


しゃっという音ともに威勢よくカーテンは送られ、

光の粒が充満し一瞬で部屋が浮き上がる。


そして。。


見慣れたガラス越しの風景にぼんやりとした異物感があった。


。。瓜 ?


ベランダのドアを開けるとやや涼しめの風が頬をなでた。

もう寒くはなかった。

遥か東側に位置するマンション群の隙間をぬって朝陽が届く。

陽光を正面に受ける位置まで進むと洋平はその光の中で目を閉じた。

皮膚の表面に群がる “昨日” の名残がチリチリと消えてゆく。


。。っプわハ


ほぼ最高の空間で洋平は豪快に欠伸をキめると耳が覚めた。

鳥がはしゃいでいる。

無遠慮なさえずりがやけに平和を連想させる。


洋平は瓜に近づいた。


。。うぅむ


隣室とのパーテーションと天井のつくる隙間からツルが1本伸びていた。

伸びたツルが物干竿受けまで進みしっかりと絡まっている。

そして瓜がなっていた。


。。いつからだ



隣室は先月末より空き部屋のはずだった。


洋平には正確な “瓜の大きさ” の基準が分からなかったが、

見た目の大きさはもちろん、

そっと添えた右手の感触はズシリと重々しく、

それはなかなかの大物である。

よくぶら下がってると関心した。


“大瓜の出現”


それが会社を休む理由になり得ない事を念のため頭で確認すると、

洋平は2度目の欠伸とともに部屋に入った。


洋平は瓜の為に2分ばかり遅れている朝の段取りをサクサクこなす。

熱いシャワーを浴びてシャツを羽織る。

スポーツドリンクを1杯だけ飲んで簡単に歯を磨く。

全ての身支度を整えカーテンを半分引く。


瓜は少し大きくなっていた。


はっきりと少し大きくなっていた。

洋平は腕時計を見る。

3本後の遅刻ギリギリの電車をつかまえる事にして、

ガラス越しに瓜をじっと観察した。


ゆらりゆらり


と揺れては瓜は大きくなっている。

ボンベか機械かで膨らませる大きな風船のようだった。

目の前の異常事態に洋平はすっかり食い入った。



ドアチャイムがなった。

我に返る。

遅刻ギリギリの電車がとっくに出てしまった事を知り、

会社に連絡しなくちゃなぁと思いながら、

洋平がうんざりとドアを開けると子供が2人立っていた。

男の子の様にも女の子の様にも見える。

「うりみせてー」

と言うと2人の子供は洋平の返事を待たぬまま、

靴のまま部屋に上がり込んで行った。

会社への連絡の事を引きずりながら洋平も2人の後を追った。



2人の子供がガラスにかぶりついているベランダドアの向こうでは、

瓜がすでに洋平の背丈程にまで成長していた。



常識が侵された時、もはや洋平の頭には出勤の事などなかった。



目の前の急速な瓜の成長に恐れながらも、

妙な正義感が沸き起こるのを感じていた。


そして瓜を切る決意をした。

洋平は急いで部屋中を探索する。

ようやく見つけだしたのは裁縫用の裁ちバサミだった。

ハサミを手に洋平はベランダへと飛び出した。



ベランダには植物特有の青臭さが辺りに充満していた。

2人の子供は部屋からじっと見ている。



洋平は息を整えると、意を決して瓜の最上部、へたの部分をうかがった。

しかし、瓜は丸みを帯びてきたのでハサミを持った手が届かない。

洋平はよじ登ろうと瓜に抱きついた。

拍子にハサミの先がチクリとささり、

その時瓜は少し暴れたが、

洋平がハサミを抜きすぐにさすってやると瓜は落ち着いた。


そろりと登りながらトップのへたの部分へとハサミを開く。

そしておもむろに右手に力を込めた。


ばちーん


ゴムの切れる様な音がすると、

しゅうという音とともにゆっくりと瓜はしぼみ、やがて消えた。

同時にしゅるしゅるとツルも隣部屋へと引っ込んだ。

いつの間にか2人の子供も消えていた。





洋平の携帯電話がけたたましく鳴っている。

洋平はベランダで仰向けに倒れている。

意識はハッキリしていた。

ケガもしていない。

そして、会社への連絡をしていない。



“大瓜の出現”


洋平は真実でもそれが言い訳になりえない世界にいた。


さっきの2人の子供が天使か、神の使いか何かで、

願いを聞いてくれるとか、かなえてくれるとか、

時間を止めてくれるとか、戻してくれるとか、

洋平はベランダに残る青い植物臭に包まれながら、

はかない思いに耽る事しかできなかった。
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Edit by : Tobio忍者ブログ│[PR]