仮面をつけた男がカメをくれると言ってきた。
どうしたものか考えていると、
サイズの割に凶暴なのでココを持てと差し出して来た。
包帯の様な幅のある布が腹の下から前後の脚の間を通り甲羅の頂点で結わかれている。
そこから2本の布が紐状に長く上に伸びていた。
中野富鞠子は右手をあげて3本の指で渡されたその先をつまんだ。
カメは意外に軽かった。
紐の先でせっせと遊泳する姿を見て、
中野富鞠子は以前テレビで見た海豚の体重測定を思い出した。
じっと観察しているとカメの動きが急に荒々しくなった。
やっぱり苦しいのかなと思い目線をあげると、
仮面をつけた男が微妙な距離でシシャモを揺らしている。
中野富鞠子はその時初めて焼く前のシシャモを見た。
まさにシシャモの死体であった。
ちょっと、と言うと仮面をつけた男は悪戯に微笑むと、
シシャモを内ポケットにしまった。
中野富鞠子は気を取り直してといった感じで小さな咳払いをする。
そして仮面をつけた男は言った。
「名前はどうしますか」
ニコラス。。
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