帰りのバスを1人ベンチで待ちながら、
中野富鞠子はうとうとしていた。
ふとぼんやり顔をあげると目の前にカメがぶら下がっていた。
うひゃと身を起こすと、
いつの間にか少女が目の前に立っていた。
サイズの割に凶暴なのよと言って、
ココを持ちなさいとカメを差し出してきた。
カメは丁寧に縛られていた。
包帯の様な幅のある布が腹の下から前後の脚の間を通り甲羅の頂点で結わかれている。
そこから2本の布が紐状に長く上に伸びていた。
はい。はい。はい。と少女のしつこさに負け、
中野富鞠子は右手をあげて3本の指で渡されたその先をつまんだ。
カメは意外に軽かった。
紐の先でせっせと遊泳する姿を見て、
中野富鞠子は以前テレビで見た海豚の体重測定を思い出した。
じっと観察しているとカメの動きが急に荒々しくなった。
やっぱり苦しいのかなと思い目線をあげると、
少女が微妙な距離でシシャモを揺らしている。
中野富鞠子はその時初めて焼く前のシシャモを見た。
ちょっと、と言うと少女は悪戯に微笑むと足元のバケツに魚を戻した。
ボールペン程の長さのシシャモは、
少女の小さな指から離れると、
ぷかりと水面に浮いていたが、
すぐに何かを思い出したかの様に勢いよく泳ぎだした。
生きてた。。
中野富鞠子は気を取り直してといった感じで小さな咳払いをする。
少女は言った。
「名前を決めて」
ニコラス。。
「ケイジ ?」
。。。。。
中野富鞠子は。。ぁあ。。という素の反応を隠しながら、
一瞬だけ冷ややかに蔑んだ睨みを送っといた。
この手のオヤジはあからさまに冷たくすると逆に勢いづく、
その事は重々承知していた。
女系中野富家にあってオヤジ丸出しの父に手厳しい姉2人、
それを側で見て育った鞠子は “その” 扱いには慣れていた。。
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