テトラポットと言う名の土産物屋に入った。入口付近で男に迎えられた。品出しをしているその男はどうやら店長らしい。洗練された愛想の良さで自然と応対した。独身謳歌してます、生涯サーファーですといった遊び心が全身から滲み出ていた。店は親から継ぎましたといった古さの中に所々 “風(ふう)” な個性が加えられている。まだ先代が健在なのか引き継ぎたてなのか、そんな事を考えながら店内をなんとなく1周した。あの男は望み通り入店以来一切コチラに注意を向けない、あるいは向けてないと思わせてくれている。鍛えられたサービスである。店の一画。天井から無数に吊るされた風鈴に戻った。なんとなく見ていると、あの男がやんわりと近づいてきた。無言で傍に置かれた扇風機のスイッチを入れると一斉に風鈴が鳴った。一斉の風鈴の音(ね)にぉおと小さく唸っていた。しばらく音と動きを楽しんでやがてその風情のなさに飽きる寸前。パチンと音がして風は弱まりやがて止まった。店長らしき男はニヤリとすると鼻歌でレジカウンターへと戻っていった。風鈴はどれも手作りなのか同じ物は2つなかった。小振りの黒い物を手に取ってみた。夜の柄だった。月がある。目を近づけると細かく星も描かれている。縁は波打際になっていた。夜の海だった。想定していた予算を若干オーバーしたが土産はそれにした。品を渡した瞬間、イイの選んだなと店長らしき男の目が囁いた。ほぼ最高の気分でテトラポットをあとにした。
もうあと4、50日はつけられるだろうか。夏はもう折返していた。海に沈む陽を見て宿舎に戻った。暑さのためか食欲がわかなかった。大方を残すと深夜に腹が減った。どうしても菓子パンが食べたくなってコンビニに行った。必要もないのに一切の音を立てずに部屋を抜けて宿舎を出た。外の方が涼しかった。蝉が鳴く。街灯に無数の虫が群れていた。鈍い音をさせ甲虫がライトのカバーに当たる。
こんこんと何度もぶつかっていた。
PR