兵士にマルボロの箱を渡すとようやく無表情の口元がぴくと持ち上がった。
依然として眼光はどこまでも鈍く瞳は濁っている。
兵士の目は死んでいた。
見覚えのある目。。
指先で箱の蓋を開けるとちらと中身を確認した。
兵士は一歩下がると目の前に立つ “異物” をじっと見据える。
時田登希夫はハンドルを支える手の平にじわじわとずっと汗をかいていた。
むき出しの武器を持つ者には何度対面しても慣れない。
たまらずに視線を下げた。
サンダルの先のつま先は石化しいる。
兵士が動いた。
マルボロの箱を胸ポケットに押し込みながら、
ついでにと兵士は自転車と荷物にも蔑んだ視線を送る。
持ち直したライフルの先で小さく合図して、
時田登希夫が急いでバックを背負うと無言のまま歩き出した。
酒場のあの書き込みはホントだったな。。
時田登希夫は兵士のあとについてなるたけ冷静に自転車を押した。
空を見上げると太陽がどこにあるのか分からない。
すっかり見慣れた光景だった。
分厚い雲が終末の絵画の様に見渡す空を覆っている。
腕時計はとうの昔になくしていた。
身体の感覚と微妙な明るさの加減で昼間である事を認識する。
審査を待つ長蛇の列は動く気配すらなかった。
兵士と時田登希夫は出国審査を待つ長い列を横目に進んでいた。
停滞する長蛇は疲れ切っている。
通り過ぎる目が時田登希夫をじっと追った。
投げかかるその視線は一様に “あきらめている”。
濁った目はその全てが死んでいた。
うらやましさ、うらみや怒りなどない。
慣れてしまったあきらめの光だった。
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