兵士にマルボロの箱を渡すとようやく無表情の口元がぴくと持ち上がった。
依然として眼光は鈍く瞳はどこまでも濁っている。
兵士の目は死んでいた。
そしてそれは見覚えのある目だった。。どこかで
時田登希夫はこの逃避行もそろそろ終わるという事をなんとなく予感している。
兵士はすぐに親指で蓋を持ち上げてちらと中身を確認する。
そのまま一歩下がると目の前に立つ “異物” をじっと見据えた。
時田登希夫は手の平にじわりと汗をかく。
何度経験しても “むき出しで” 武器を持つ者には慣れなかった。
目のやり場を求めて視線を下げる。
兵士の足下でサソリの様なクモの様な特有なヤツがじりじりと這っていた。
履き古された革のサンダルから見えるつま先は石化している。
慌てぬ様にゆっくりと視線を戻すと兵士が動いた。
兵士はマルボロを胸ポケットに押し込むとライフルの先で小さく合図した。
時田登希夫は急いでバックを背負う。
兵士は無言のまま歩き出した。
酒場のあの書き込みはホントだったな。。
時田登希夫はなるたけ冷静に自転車を押した。
審査を待つ列は全く前に進む気配がない。
兵士と時田登希夫はそれを横目に進んで行った。
停滞する長蛇は疲れ切っている。
通り過ぎる時田登希夫にだけ “目” が追って来た。
兵士と同じ見覚えのある目、、やはりその全てが死んでいた。
兵士が足を止めた。
振り向いてここで待てといった合図をする。
辺りには何も無かった。
選択肢のない時田登希夫が仕方なく頷くのも待たずに兵士の背中は群衆に溶けた。
審査を待つ列はいつの間にか群れとなっている。
荒涼とした空間一面にムレは広がっていた。
バックパックを地面に下ろす。
自転車のスタンドを立てた。
相変わらず分厚い雲が見渡す空を覆っている。
すっかり見慣れた終末の絵画の様な光景だった。
太陽がどこにあるのか分からない。
腕時計はとうの昔になくしていた。
身体の感覚と微妙な明るさの加減で昼間である事を認識する。
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