「ここに来るまであんまり人がいなくって、、つかほとんど誰も」
なんとか普通を装いながら勧められた椅子に腰掛けると巡査はそのまま背中を向けた。無言のまま、のそっのそっと巨体を揺らしながら奥へと引っ込んで行く。聞こえなかったのだろうか、あるいは声がちゃんと出てなかったのかもしれない、そんな事を思いながら後ろ姿に視線を送った。いきなりの「彼」との遭遇にぐつぐつと動揺が膨らんでいる。ともあれ、到着して早々にお目当ての犬のお巡りさんとの呆気の無いご対面となった。
少し落ち着かねばと深呼吸をする。椅子を回し窓の外を振り返った。人気のない駅前の広いロータリーにはバスはもちろん乗用車も一台もない。バス停の屋根の上に数種類の鳥が入れ替わりとまっては飛び立っていった。少し遠い場所から警告音が聞こえ始めて到着なのか通過なのか間もなくの列車の訪れを知らせている。かんかんという踏切の鐘の音が静けさに響くと鳥達が楽しそうに呼応した。
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