「ピンクで」
例により社長の決断は斬新と言うか破天荒である。
と言うか、突拍子がなくて、誰も思いつかないというよりは、誰もがとりあえず外した候補を採用するのだった。そして会議は散開する。慣れた古株達は「またか」とやれやれ顔で隣と目配せし、新人達は目と口を開いたままきょろきょろと周りを見るのだった。
「社長さんはそれでいつも勝ってきた」
お仕事は結果が全てだからねぇ、ぼうりぼうりの合間に母が言う。いつの間にどこからか取り出した煎餅を助手席で元気よく噛み砕いていた。私にはよくわからんけどねと笑いながら、時々、母は物事の核心に近い部分をちくりとついてくる。トンネルを抜けてから、我々はひどい渋滞に巻き込まれていた。
「そらごらんあれ」
そう言って目の前でみるみると木々が紅葉していった。
「これ全員行くんですよね」
渋滞の中にいた。ナビの示す到着予定時刻がどんどん加算されてゆく。
「ちょっとツヨすぎるね」
強過ぎる、聞こえぬように繰り返してみる。差した指の方向で洗濯物が大きく揺れていた。あぁ風の事か。
「旅に?」
今朝、郵便受けでみつけたハガキを見せた。
「あぶないっ」
後ろの方のシートから声が聞こえた時には、すでにファールボールは眉間の先であった。
「あなたもすきなんですか」
川を見下ろしていると橋の上で声をかけられた。夜中の嵐で川は増水し混濁している。
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