「ピンクでいく」
目を開けた社長はボールペンの尻でこつんと机を一つ叩いた。
そして一言。
会議は散会した。
慣れた古株達は「またか」とやれやれ顔で隣と目配せている。
未だ慣れぬ新人達は口をだらしなく開けたままきょろきょろと周りを見るのだった。
例により社長の決断はいかにも斬新というか、破天荒というか、、脈絡がなくて突拍子がなくて現場の誰も思いつかない、つか思いつけない、、と言うよりは、とりあえず「それはない」と我々現場が真っ先に外している選択肢をひょいと採用する。社長は社長は現場は現場は、、とそこまで一気に言った時、いつの間にどこからか取り出した大きな煎餅を母は元気よく噛み砕いた。
「でも社長さんはいつもそれで勝ってきた」ようやく助手席からクチを挟むのだった。
ぼうりぼうりといい音が車中に響く。
説教じみているわけでもなく嫌味っぽくもない、かといって投げ槍というわけでもない、そんないつもの母の口調だった。
お仕事だと結果が全てだから大変ねぇの後で私にはよくわからんけどと笑う。
今日もまた母は物事の核心に近い部分をちくりとついてくるのだった。
だからしょっちゅう現場は自信喪失なのさと言ってみると気分はやはりすっとしている。
半分、と言って助手席に手を差し出すと母は嬉しそうにパキっと乾いた音をさせた。
トンネルを抜けてから、我々はひどい渋滞に巻き込まれている。
ストレスはなかった。
緩く山間に落ちて行く車列は遥か先まで見渡せているので、
不思議と折り合いのつけやすいイライラなのである。
そろそろ紅葉の始まりそうな山が離れめの視界に迫っていた。
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