「運命って信じる?」
今日一日、手当たり次第に問いかけて、
最後にうちの老婆にも聞いてみようと思い家路を急いだ。
バスの中で食べてしまおうと思っていたミニ笹かまを我慢する。
蒲鉾はそんな老婆の一番の好物だった。
夏の終わりからふらりとうちのベランダに住み着いた老婆。
「まだ生きているだろうか」
窓から見ると吹き込む落ち葉を丁寧に掃き集めていた。
先週のかなり冷え込んだ一日から、しばらくベランダの隅でじっとうずくまっていた。
もうダメかなと思ったら元気そうである。
めっきり早くなった落日が迫っていた。
オレンジの刹那の世界への最初の段階。
淡い光が惜しみなくベランダに降り注いでいた。
老婆は小さい。
掃き貯められた葉が色の違いで大別されて小さな三つの山となっていた。
老婆の切れのある動きに背中から鼻歌が聞こえてくるようである。
しばらく見ているとすぐに蒲鉾のニオイに気がついたのか老婆がこっちを見るのだった。
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