「運命って信じる?」
朝から手当たり次第に聞いている。
それって意思なんだと思うそれとも運命?
触れるものみなにそう問いかけたのだった。
ここのところバイオリズムが乱れているのである。「こころ」があたふたときょろきょろと活発になっていた。脆弱な精神が抽象な方向へとふらふらと逃げたがるのである。「運命」などといったぼんやりとしたもの存在の是非を必要としているのではなくて、ただ「誰だって何だって自分とさほど大差ないんだ」そんな甘ったれた事を確認したいのだった。ただ周りも同じように浅い日頃をのらりくらりおどおどと歩いているのだという事を実感させてよ、そんな風になよなよと「こころ」が内側をノックするのである。
午後の授業はキャンセルして家路を急いだ。
通り過ぎる店先にクリスマスの文字。
夜の長い季節が始まっていた。
マフラーを忘れた首に冷たい風が抜ける。
昼を過ぎると陽の光はあっという間に夕方のものへと移行した。
低い光線が陰と日向をくっきりと地面に映している。
朝とは風の向きが変わっていた。
東から空が曇り始めている。
予報よりも早く雨が振りそうだった。
疲れも薄くバイトもなし、こんな日にどこにも寄らずに真直ぐ帰る事は不安である。漂い始めた衝動を沈めてなだめて閉じ込めながら人混みをどんどんかき分けた。邪魔邪魔と早歩きながら、そうだと思いついた。
「老婆にも聞いてみよう」
それで一先ず「こころ」を締めくくる。
そう思うと足取りは微々と軽くなるのだった。