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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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FULL-MOON STONE


ラベルの “品名” の欄にはそう書かれていた。
満月石。。月の石?
突然受けた海外からの小さなパッケージに野山美江子は眉を寄せる。
差出人は。。。 Sakiko Mizuhara 。。。ぉお。

小包はサキコからだった。


野山美江子は4日連続の残業をこなして帰宅した。
お陰で仕事の方は停滞させずになんとか進んでいる。
そして、スーツはよれよれ髪はギトギト肌も化粧もボロボロなのに、
そんなのどうでもいいや、と開き直る精神状態だった。
疲弊している。

宅配ボックスの中央でちょこんと待っていた予期せぬ訪問者、友からの小さな贈り物は疲れきった心身をただシンプルに癒していた。パっと温まりじんじんとこみ上げ続ける面白さで足取りも軽くドアまで行くと鍵を回す。締め切られた部屋のじっとした空気を進んだ。野山美江子は鉄筋コン造のこんな密閉感が嫌いじゃない。肩からイスにバックを下ろすとテーブルの端の定位置に鍵を置いてコンビニの袋を中央に広げた。

野山美江子はサキコからの小包を手に取って丁寧に眺めてみた。
押したり振ったり掲げたりしてみる。
大きさの割には重く外国がほのかに匂った。
切手の多さが妙にウケる。
久しぶりのサキコの字がやたら温かくって野山美江子は自然とにやにやしていた。
笑みのままてくてくと部屋中を歩き回っている。
少し考えて、、
まだ開けない事にした。
テーブルの上のお茶とコーヒーの間に立ててみる。
ちょうど良いバランスで3者が並んだ。
オニギリを寄せてみたりサラダを重ねてみたりする。
サキコの小包を他のみんなで囲んでからようやくシャワーに立った。


いつも通りに昼間の疲れをすっかり洗い流してしまうと野山美江子の一日は終わった。
そしてようやく自分の時間がくる。
サキコからの “特別” の分だけ余計に気分は盛り上がっていた。
ふんふん♪
今日ばかりは鼻歌プラスでお風呂から上がった。


リビングに “楽しさ” が充満していた。

水槽の蛍光灯の明るさだけの薄暗い部屋でテーブルの上がひっそりと宴だった。
野山美江子は暗がりの車座にそのまま近づいて物どもの声にそっと耳をすます。
目を閉じるとひそひそと少しまだ打ち解け切れてない初々しいやりとりが聞こえてきた。。

髪を乾かしながら一息つくと、
野山美江子はサキコからのギフトをすっと持ち上げた。
ぁあ、と取り囲むコンビニの夕食達からため息が漏れる。
すまんねと野山美江子は軽快に窓際のベットへと跳ねた。
枕を抱きうつ伏せになると見上げるカーテンの隙間から夜が漏れている。
手を伸ばし半分だけ開けると月光で手元がすっと明るくなった。
頭上に大きな白丸1つ。
今夜は満月だった。
高い位置の見事なフルムーンを中心に星も見える。
曇り続きの夜がようやく晴れていた。

よしと弾みをつけて野山美江子は今夜の主役に向き合った。
厳重に巻かれたビニールテープを丁寧に剥がす。
表面のつるつるとした包装紙に包まれていたのは白い箱だった。
ボール紙のどこか懐かしい箱。
蓋を開けるとふわと匂いがもれて外国らしい花紙に包まれて石が1本入っていた。

「フルムーンストーン」

宛名ラベルの品名を確認した。
持ってみてどうやら月で採れた石ではないようである。
丸みのある直方体は野山美江子の手にしっくりと収まった。


石を両手で包み込むとヒンヤりとしたヌクモリで何かが伝わろうとしている。
野山美江子はカーテンを全開にした。
導かれる様に満月の光の下に身をさらす。
白い光にやわらかく目を閉じると手の中で上品に宇宙が伝わった。

野山美江子は石を窓辺に置いた。
異国の満月の光にさらされて石は黙っていた。
野山美江子は石が包(くる)まっていた花紙を程良く畳むと石の下に敷いてみる。
やがて石は表面にうっすらと水を滲ませた。
すぅと気が長くもれる。
石は居心地がよさそうだった。


そして石はゆっくりと地蔵になった。

あどけない寝顔は幼く丸みのある体躯が子供のような地蔵だった。
小僧と言った感じである。
くっきりと姿が浮き上がると石の小僧は眠そうに立ち上がった。
眩しそうに満月を見上げたりぎくしゃくと伸びをしたりする。
眠そうになんとか立っている石の子供を見ているのは飽きなかった。

野山美江子はそんな石の様子をいつまでも見ていた。

ようやく1つ欠伸が出て、時刻はとっくに深夜の域だろう。
野山美江子はそっと石を手に抱いた。

石はすっと野山美江子の手に抱かれた。

花紙を敷いた元の白い箱に戻してやると石は抗わず横になる。
野山美江子が静かに蓋をするとすぐにすーすーと寝息を立て始めた。

白い箱を月光の当たる窓際に置いて野山美江子もそのまま眠りに落ちていった。
ごく浅い部分でサキコを想う。
間もなく帰国するサキコを最初に出迎えるのは今度は自分からの手紙にしよう、、そんな事を思いついた。明日、レターセットを買う、、そう脳裏にメモをすると安心してより深い寝層へと降下した。


数時間が経過して、、
満月はいよいよ還ろうと高度を下げていた。
真っ白い光はもうあと少しだけこの星の夜を照らす。

宇宙の片隅の一室で、、
石の眠る白い箱と無防備に眠る白い頬も今夜の月に照らされている。
開け放たれた窓際で、、
偶然出会った2つの白が安らかなエネルギーを部屋一杯に充満させていた。
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