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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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久しぶりに接待のない休日が始まろうとしていた。


にもかかわらず、
洋平はしまったと思いながら半分目を覚ましていた。

窓を全開にしたままTシャツにトランクスといった夏の装いで眠ってしまった。
洋平はベットの上で凍えている。
毛布は手の届く範囲になかった。
シーツ代わりのタオルケットにくるまってみても完全に冷えきった足や腕はいつまでもずしりと重い。
後悔と情けなさを嘆いていると次第に頭だけはハッキリと眠りから覚めていった。

窓を閉めたいと思いながら洋平は動けないでいた。
身体を起こした途端に頭痛だなんだと風邪の初期症状に襲われる気がする。
洋平はベットのまん中でただじっと身を固めていた。
誰か窓をしめてくれないか、どなたか毛布を持ってきてくれませんか、、
完全に目覚めた頭の中で儚(はかな)い願いがグルグルと意味もなく繰り返された。
ひと呼吸おいて、どうやらホントにヤバそうだという身の危険にようやく意を決して動きだした。
寝返りの勢いで上半身を起こすとベットの端に腰掛ける。
そのまま立ち上がり窓際まで歩くと案の定、頭痛の前兆がずんずんとこめかみの奥に響き始めた。
カーテンを開ける。
外は曇っていた。
小雨も降っている。
夜のうちから降っていたのだろう、
風に乗った雨粒が全開の窓から網戸を抜けてカーテンの裾と絨毯の縁を濡らしていた。
たまっている洗濯物の事を思い洋平は深く嘆息する。
不意に口元がははと緩むと一層落ち込んだ。

怠(だる)い体を奮い立たせて洗面所へと向かった。
普段の倍の時間をかけてようやく服を脱ぐとシャワーを浴槽に向けて蛇口をひねる。
水が温まるのをじっと待つ間、吐き出す息がやたらに熱かった。
高温のシャワーをゆっくりと浴びながらこわばった身体をほぐす様に全身をよく擦る。
うっすらと汗をかいてみて調子がやや上向いた。

浴室から出ると洋平は朝食の準備を始めた。
コーヒーを丁寧にセットする。
豆の香りに食欲が次第に湧いてきた。
こぽこぽと抽出が始まると思い立ち洗濯機に向かう。
さっき脱いだ物とバスタオルも放り込んだ。
乾燥機なぁとその必要性を自問しながら電源を入れる。
すっかり本調子だった。
威勢よく注水が開始され洋平が洗剤の箱に手を伸ばしたその時、、
ドォン ドォン
強い打撃音が響く。
どうやら何者かに玄関のドアが叩かれた。


洋平は一瞬動きを止めた。
玄関の方向に全神経を集中させる。

ドォン ドォン

再び。
時刻はまだ8時になっていなかった。
こんな時間に宅配はない。
オートロックにかからないのは同じ住人だけだった。
しかしこのマンションに洋平の知っている人物はいないし洋平を知る者もいない。
洋平はインターホンを使わずにドアに近づいた。
息を止めて覗き穴をうかがう。
その瞬間、思わずぅわと声をもらすとドアから1歩跳ね退いた。

レンズの向こうに熊を見た。

鉄扉を睨む洋平に緊張が高まる。
クマって、、
洋平は何かを見間違えた事を確認したかったがドアにあと1歩近づけなかった。
声を出してしまった手前このまま無視する事もできない。。
間もなく、3度目のドンドンが来るのか。。
4秒の葛藤の間に洋平は何やらくぐもった声をドアの向こうに聞いた。
人間か、、
何と言ったかはわからない、ただ確かに人間の言葉が聞こえた。
日本語かどうかも定かではないが少なくとも熊の唸(うな)り声ではない。
洋平は1歩前に出て再びドアの向こうを覗き見た。

レンズの向こうには人がいた。

声の主であろう男が1人ドアの前に立っている。
洋平がじっと観察しているとそのポンチョを着た初老の男が視線を上げた。
男は洋平を見ている。
見えてるはずはない、、
男はじっと洋平を見据えたままじわーっと顔を近づけて目玉を接近させた。
洋平は再び声を出しそうになり慌てて大きな音でカギを開けた。
密閉の玄関に冷気が一斉に流れ込む。


ドアの前にいたのはウィザードだった。


洋平がウィザードを見るのは2度目だった。

洋平は記憶を辿った。

実家にウィザードが来たのは洋平が小学校に上がる前の事だった。
その時のウィザードは見た目30才前後の青年であった。マントで全身を包み三角帽子をかぶっていた。突然の訪問者に一家はばたばたと大騒ぎしながらも全員で彼を温かく出迎えた。結局その日ウィザードは夕方まで居座った。経緯は忘れたが、帰るという段になりまた家族は総出で彼を見送った。家族はみんなへとへとに疲れた。そして妙な一体感と達成感に満たされていた。少年だった洋平の心にはそんな悪くない雰囲気が焼き付いていた。そして「ウィザードは何でもお見通しなのよ」というおばあちゃんの一言が特に鮮明に記憶に残っていた。

そういえば、、
休日に家に全員揃っていたなんてあの日だけだったな


洋平は目の前の初老のウィザードをまじまじと眺めた。
ポンチョだと思ったものはマントの様にも見える。
着古した布の独特の光沢が角度によってはビニールの様な安い質感と見間違う。
ドアが開いた時、老人は手に持っていた三角帽子を慌てて頭にかぶった。

本当にウィザードか、、

洋平の目が疑念に濁り始めた時、熊の正体が現れた。
男の肩からひょっこり顔を出したのだが、もちろん熊ではない。
“ヤツ” は地面に飛び降りた。
ヤツが何なのか確かめようと洋平が目で追う間もなく、
老人の足下をびゅんびゅんと2周回ると野生のスピードでたたっと玄関に入る。
洋平が、、ぁわと素っ頓狂な声を上げる間に股間を駆け抜けた。

慌てて振り返ると、廊下の先、リビングへの入口で行儀よく座る猫が洋平を見ていた。

「猫じゃないフェレットじゃよ」
男が口を開いた。
え、、あ
洋平は言葉を失った。
ウィザードは放心の洋平の肩をぽんと一つ叩く。
「世にも恐ろしいニオイの持ち主じゃよ」
ウィザードが笑みをつくり目尻に皺が深く寄った。
音もなく洋平の身体を通り抜ける。
ウィザードは洋平をそのままに部屋の奥へと進んで行った。


「ウィザードは何でもお見通し」


洋平の頭におばあちゃんの言葉がくっきりと反芻された。
ドアが閉まる。
外気が遮断されてぴたりと時間が止まった。
数分の出来事を洋平はとても長く感じている。
へとへとに疲れていた。
ウィザードの脱いだ古びたサンダルを揃える。
猫じゃないフェレットじゃよ、ウィザードがそう言った時、
ウィザードの顔はおばあちゃんの顔だった。

洋平は9歳の時、初めてウソをついた。
ノートを買うと言っておばあちゃんから200円を騙し取ったのだ。
ウィザードはあの時のおばあちゃんの顔だった。

「。。何でもお見通し」


立ち上がると頭の奥が洋平のこめかみをノックする。
今度は前兆ではないハッキリとした頭痛だった。

ウィザードが体を通り抜けた一瞬、洋平は何かをされた。
奪われたのかあるいは背負わされたのか。
あの瞬間から胸に引っかかる深い喪失感が何なのか、
洋平はウィザードに確かめなくてはならなかった。

リビングへと進む洋平の足取りは重かった。
吐く息が熱い。
手足を動かすと節々が痛んだが、猫、いやフェレットとウィザードをとにかく追いかけた。

途中、ごとごとという音を聞いた。
洗濯機が律儀にプログラムをこなしている。
洗剤は入っていなかった。
思い出して洋平は仕方なくわざと口元を緩ませてみるがやはり一層落ち込んだ。



誰か 。 どなたか ぼくを 。。


1歩1歩重くなる頭の奥で無意味な願いを繰り返していた。
始まったばかりの休日に洋平の頭の中は儚さがグルグルと回り続けている。
洗剤の入っていない洗濯機と同じリズムで意味もなくいつまでもぐるぐると回り続けていた。
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