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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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「これで終わる」

ようやく「世界のへそ」を見つけだしたから、
あとはそこに大量の火薬をぶち込んで、
ぶっぱして、
ジ、エンド


週末に行われた花火大会の跡地で不発玉を漁っていた。
初めて、仕事をほっぽり出している。野球場の脇に停めたバイクがおぅいおぅいおぅいおぅいと呼んでいた。そんな雑音が頭でわいてはどろりと胸まで降りてきては内側をとんとんとんとんと叩いている。じわりと外に染み出ては耳の辺りでぼわぼわぼわぼわと騒ぎ立てた。今年、今日、今しかない、と心に唱えては新品のマグライトを振りかざし邪念を散らす。不器用に揺れる光の先、足下の草間になんとか意識を集中した。


世が明けきる前に決着しないと


やがて、左手に持ったコンビニの袋は火薬のまだびっしり詰まった大小の花火の玉であっという間にずしりと重い。


ついに、
ようやく、
あっという間に、
言わゆる黒玉ってやつが手に入っていた。

相変わらず世界はユルい。


野球場に戻った。
夜の終わりの静寂の中で自分の切れた息だけがうるさい。どくどくどくどくと鳴る鼓動を抑え込みたくてとっととバイクに股がった。爆弾の詰まった袋をそのままタスキに包んで胸に抱く。渋るエンジンを派手なキックで始動した。
躊躇なく「へそ」へと向かう。
粗い砂利道でバイクが揺れる度にいいのかいいのかほんとにいいのかいいのかと配達途中の朝刊の束が騒ぐのだった。
未練などない。
言い聞かせてはライトの先を睨みつけた。

河川敷を疾走する。
切る風が全ての音にかぶさると余計な何もかもを遮って心地良い方の「孤独」で包んでくれた。
広い道を走る自分を俯瞰する。土手を消して砂利道を消してバイクも消した。両手を前に突き出して、屈んだような妙な姿で真直ぐに宙を移動する。そんな自分を想じながら、このままどこまでもどこまでもと念じてみては、夢想を打ち消してタスキの中の乾いた重みにリアルを確認する。
世界の終わりは間もなくなのだった。


幾分落ち着いたのか急にもよおしてスピードを落とす。バイクを停める。エンジンを切ってタスキに爆弾を抱いたままマシンから降りた。前カゴの朝刊を一部抜いて用を足そうと葦を分けて入って行った。
身の丈の鬱蒼に視界と風がすぐに遮断されスニーカーが草やら枝やらを踏んでゆく音だけがざくざくざくざくと両耳でボリュームを上げる。露出する頬を腕を足首を夏草に容赦なく切り刻まれながら、あるであろう川を目指した。
暑い。
自分よりも背の高い植物に取り囲まれて汗が出続けた。周りの空気は十分に冷えているはずなのに背中から顔から尻から水分が抜けては体温を下げようとする。右手の朝刊を固く丸めて立ちはだかる植物を大袈裟に叩き切った。跳ねっ返り頬を打つ。そしてますます汗をかいていた。動くのをやめる。その場にじっとして眼を閉じてみると、草は、ただそこにあるだけだった。行手を阻んでいるのではない、何年も何十年も前からただそこでしゃんと背筋を伸ばし空に伸びているのである。このリアルの中に自分など含まれていない事に気がついたら、刀を収めるしか自分に出来る事はなかった。
恥。
丸めた朝刊をタスキの中に入れ火薬の脇に抱いた。丁寧に葦の生域を進み直す。
すぐに川らしいにおいが強まってくると急に目の前が開けるのだった。草の原を抜けて飛び込む遠景に焦点が一瞬だけぼやける。そのあとは馬鹿大きな水の帯が圧倒的に視界を悠然と占拠した。


静寂。

葦を背にコンクリに尻をつくと水面にナイキの裏がぎりぎり触れた。

波紋。

ここでは全ての音が発生しては川に即座に吸収されていった。

水鳥。

東の闇がひっそりと明け始めていた。
川下の遥か遠い街が朝を迎えようとしている。
そろそろ四時半を回った頃だろうか、
この時間いつもならと配達先を想像して、
無意識に時計のない手首に目をやっていた。

世界の最後の日に腕時計は必要ない。

おい、と口に出した。
久しぶりの自分の生声は貧弱にかすれて川の流れに溶けてしまう。
やがてくすくすと笑い声が周囲からわいてきた。


沈着。

いつもそうするように尻のポケットから文庫本を取り出した。
心を鎮める。
家出の前夜、父親の書庫からくすねたものだった。古い散文集にタイトルはない。無名の三百六十五人による名もなき文章には書き出しにただ日付だけがそれぞれに一年分記されていた。変色しいつも湿気っているざら紙のような頁を手繰り「今日」を開いた。



  朝と夕、一日に二度、境界の時間に世界は青く染まる
  草も木も水も、
  船も車も橋も柵も、
  肌も髪も爪も目もそこにある全てが青で表わされる
  起こりうる事が起こるとすれば、
  それはいつも青い世界で開始するのだと思う
  夏の青い世界は長い
  だから、
  色々なはじまりに遭遇するチャンスが多いのかもしれない



川の水は中央でゆるやかに逆流していた。
目の前、対岸で視線の高さの低い空で熟れた月がほぼ満丸である。
立ち上がった。明るむ空に背を向ける。ちょうど水の流れの方向、川上に向かって歩き出した。
青い世界について少し想いを巡らせる。まだ夜のはずの空が青かった。無色の水も緑の葦もインクに汚れた黒い指先も白いはずのスニーカーもなにもかもに青い膜がかかっている。

か、ナミダがアオくなったのか、いずれにせよ今がきっと青い世界

歩きながら気になってもう一度本を開いてみた。けして悪くない心地のままに、水の流れに沿って緩くカーブする川縁を回り込む。やがて左側で繁茂の葦がまばらになるとそこは小さな入り江だった。そう言えばと思い出し用を足す。コンクリの壁からむき出された川土へと飛び降りてみた。
水が弱々しく打ち寄せている。
いざとズボンのベルトに手をかけた時、神妙な存在感が意識の端に引っ掛かった。
間もなく沈むだろう月の明かりが視界の端で不自然な水面の揺れを反射している。
見ると大きな魚が一匹、数本の水草に囲まれた浅瀬につかまっていた。
鯉だろうか。じっと動けずに髭をたずさえた大口がパクパクと力無く開閉していた。そっと近づいてみる。覗き込むと身を一つくねらせた。掃き出された水が周りの土に浸透し溜まりがさらに浅くなる。

抱えて川に還すイメージを打ち消した。大き過ぎる。
そして水を引いた。石で底土に溝を切る。ゆっくりと鯉は浸水した。



そして

「青い世界」で鯉が女に姿を変えた。



それはいつも青い世界で開始する。



冷静に受入れていた。

女がじっとこちらを見据えている。

スニーカーの中で靴下が濡れていた。

中央で逆流していた川が元の流れに戻っている。

水が寄せ始めていた。


女から敵意は感じない。

ただ言葉が出なかった。

距離を詰めてみる。

交錯する視線に脅えはなかった。

手の届く距離で女が微笑むから、思わず女にそっと手を伸ばす。

触れた黒髪にまだ川の水が残っていた。

勢いに任せて頭頂から耳の辺りにかけて指の背を滑らせる。

震える爪がしっとりと濡れた。

膝に水を感じる。

まくり上げたチノパンの裾が濡れたようだ、重かった。

女は視線を外さない。

不意に唇を奪いたくなって、

指先を頬のラインからアゴに伝わせると魚らしくぬらりとテリトリーからすり抜けた。

沖へと女が距離をとる。

触れたい、そんな無垢な推進力が迷わずに一歩二歩と前に進ませた。

太ももが濡れ下着に水が染みる。

手をさしのべた。

女も手を伸ばす。

そのままつかんでゆっくりと引っ張った。

倒れ込む。

水中で女を抱き寄せた。

抱き締めて一つのままゆっくりと沈んでいく。

そして水の底に着くと泥が煙のように舞った。



力を抜く。


両腕からすり抜けた女が身をくねらせて鯉に還っていった。

行きつ戻りつしゆっくりと離れて行く。

遥か遠く、澄み始めた川底で一度だけ魚は翻り再びこちらを見た気がした。





底を蹴り首を出す。

どこどこというエンジン音が耳に飛び込んできて、

今日の「開始」を合図していた。

すっかり白い空の下で大きな船が通り過ぎる。


太陽が完全に昇ったのだろう、

風にかすかに熱が含み、

蝉が喚き始めていた。



川をかき分けて大船はどんどん小さくなる。

その様子を呆然と目で追っていた。


大小の波頭が胸の辺りをちゃぷちゃぷと叩いている。

ずぶ濡れを小馬鹿にするように、

遅れて届いてくる波が何度も打っては何度も消えた。


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