束の間に海は濁った。
スコールが止んで漁師達は一斉に沖へと競い出る。
わらわらと浜をかける男達を横目に中野富鞠子は津波警報を待っていた。
空港で買った旧式のラジオは懸命に電波を拾っていたが、
雑音の向こうから聞こえてくるのは時節に寄り添うサーフミュージックだけだった。
連れは安さと旨さを熱弁するとさして特徴のない店にワタシを連れて来た。フタを開けてみると、古い同級生がやっているという事だった。初めてのデートで使ってはならないお手本のようなフツーの大衆居酒屋である。がちゃがちゃと騒がしく、口べたの連れには都合がよさそうだった。そして、人の話を聞くのが好きなワタシには相応しくない場所であり相手だった。
これこそ、と思っていた大切な恋に一方的に終止符が打たれてからどうも軽薄になっていた。それはいけない事、とも思わないが、軽薄に振る舞い行動するとはこれほど忙しい事だとはいい経験をしている。
つかみ合いのケンカというのを生で初めて見た。それが連れというのはずいぶん恥ずかしく、こいつとは別れようとささやかに思った。新宿はまだ 21:48。
大した人集りはできなかった。遠目に冷笑するカップル。このエリアでケンカなど日常なのだろうか。連れへの言い訳を考えついた。大通りの信号が変わったのを機にこの場を離れた。さて、終電までの90分をどう過ごそうか。
ぽつぽつと歩いていると、すれ違い様に声をかけられた。
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