束の間に海は濁った。
灰色が水平線からみるみると青空に滲むとじめりと風に湿度が増した。
空が2度3度と光る。
雷鳴はぱりぱりとまだ遠く高い位置で不気味にくすぶっていた。
雨。
一気に大粒のあるいは、線となって水が落ちた。
不意に激しく降り出した雨に周囲の音は全て奪われた。
浜をかける男達。
中野富鞠子は海上コテージの窓辺からそんな光景を眺めていた。
スコールが止み切らぬうちに漁師達は一斉に沖へと競い出る。
遠浅が視界の届く限り続く穏やかな海に腰までつかった男達が我先にとポイントを目指すのであった。
中野富鞠子は最終日も津波警報を待っていた。
空港で買った旧式のラジオは懸命にか細い電波を拾っていたが、
雑音の向こうから聞こえてくるのは時節に寄り添うサーフミュージックだけだった。
出遅れた兄弟がシンプルな小舟を海面に放るように浮かべた。
目の粗い古網と弟を乗せるとほっそりとした兄が舟を沖へ引く。
砂浜から20メートル程の近い位置で網を準備する弟に兄が何か言った。
すぐさま弟は足下のモリを兄に投げ渡した。