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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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目を覚ます事は雑作のない事、、というよりも自然と起こる生理。社会人となってから会社に遅刻する事の面倒さがほとほと身に染みたのか瑞玉野梨子はすっかり朝に強くなった。休日前夜は目覚まし時計をセットしない。それでも体内時計でしっかり定刻に目が覚めてしまった。葛藤はそこからであった。不断なら寝ればよいのだが、今朝は特に。朝の太陽を浴びに行くと決意してしまった。日の出は待ってくれない。じっくりと人肌に温まりいよいよ一体化した寝床から起き抜ける事はこの上なく難易度が高かった。今年も、もうそんな季節。それでも今朝の瑞玉野梨子はえいやと気合いもろとも毛布から転がり出た。じっとしていた部屋の空気をかき回す。電気を点けて大きく欠伸をした。抜け殻の布団の上に倒れ込んでみる。それで完全に目が覚めた。“巣” の外壁はまるでかたい紙の様だった。冷えきった布が溶け合おうとせずに熱を奪う。瑞玉野梨子は、温めていない皿に盛られた “蒸しもの” の気持ちがふと分かった。


めっきりと、夜の終りが冷えきっていた。瑞玉野梨子はせっせと愛車のママチャリを漕いでいる。間もなくの日の出までに土手に着きたかった。もこもこに着込んだ身体がようやく熱を帯びてくる。すくめていた首元を少し緩めるとマフラーから出した唇に朝っぽい風が触れた。夜明けは近い。右手を握り込みギアを1段上げるとじっと硬直させていた全身の筋肉を少しずつ開放させた。

面倒になったのですべてを投げ出して大の字に寝転がった。放り投げた携帯電話はまだ鳴っている。裏返り枕の間に顔をうずめた。両手でがっしりと顔を挟み込む。真新しいシーツと枕カバーが冷たく肌にあたる。土の中にいる様な気がした。

メカにはどうも疎くて、とかなりやんわりと言ったつもりだったが、語気に「興味ねぇんだよ」が滲んでしまったのか、若き工学博士は最新の携帯電話についての講釈をストップすると、あからさまに幻滅の表情を浮かべた。2人して目線を下げるとまるで漫画の様に絶妙なタイミングで“鹿威し”がかぽんと鳴った。

メニューが渡された。表紙に小魚が描かれている。メダカだろうか。頭上の吹き出しには手書き風に「めにゅ〜」と印刷されていた。目の前のカレの字に似ていたがその事は黙っておく。分厚い表紙を開くとただ1枚だけ紙が入っていた。

めだか屋に意を決して入った。駅までの帰り道、なんとなしに別の路地を入ると小さな看板が掲げられていた。めだか屋。メダカを売っているわけではない事は分かっていた。

目一杯背伸びをした所でびりと音がした。
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