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今日も地球がまわるからワタシはぐるぐる夢をみる、、 ふわふわ浮かんだ妄想を短編小説に込めました、、ユメミルアナタへ愛を込めて☆             
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「ここか」
 ハカセはメガネを押し上げた。
 ハカセと言っても実際には博士ではないし押し上げたのはメガネというあだ名のクラスメイトをではなく実際の眼鏡をである。


「その説明いりますか」編集者様であるワタシが横から口を出した。
「読者ってのは多岐にわたるものです」作家先生であるワタシはそれっぽい言葉でその場を煙に巻いてみる。
「クラスメイトを押し上げるって、、でしたら最初から眼鏡と漢字で書いておしまいなさい」はぁ、そうきましたか、でも眼鏡はメガネとしたいんだよなぁなどとワタシは思いながら本日三杯目のコーヒーをおかわりしに席を立った。
三たび息抜きに目線を変える。

昼下がりの店内は客足半分といった程度に落ち着いていた。三人のウェイトレスが雑談をしている。一人は極端に若くて新人という風であった。店全体を見渡せる場所の広い台を使って新人と一人がカトラリーの準備をし、もう一人はメニューを拭きながらどうやらディナー版を差し入れている。ナイフフォークスプーン箸が定数に揃うと春色の布巾にくるまれては小さなバスケットが一つまた一つと並んでいった。談義の中身は聞こえないが、時々、三人からゆるりとした屈託のない笑顔が順番にあるいは一斉にこぼれている。抑えた声のトーンと下げ気味の目線に「仕事中」の意識が現れているのがなんだか健気であり妙に愉快であった。「のほほん」という単語はいつどこでどんな日本人が言い出したのだろうか、平日の午後にぽっかりとできた平和な空間には、そんな妙な脱力系の平仮名がぴたとあてはまる。

そして、
店長が現れクモの子を散らしたように、
そして、
店長が現れクモの子を散らしたように、、

カップにコーヒーをつぎながらゆっくりと頭で二回、予言を唱えてみる。彼女達を見ない様に見ない様にして席に戻った。どうやら鬼店長の出現は叶わなかったようである。ウェイトレス達はまったりとやわらかいオレンジの光を放っていた。ふふ。それはそれで安心しつつ熱々のコーヒーにひと口触れてから小説を再開した。


 バスの中は静かだった。
 つい五時間前までの騒々はすっかり失せている。
 先生生徒とガイドさんを含めた総勢三十三名の寝息も寝言もイビキも歯ぎしりも、
 どっしりとした一定のエンジン音がかき消していた。
 低い天井で残熱が蒸散する疲れと静かに混ざって冷えていく。
 車内で一人、ハカセだけ計算通りに起床して窓の外をうかがっていた。
 バスは一定の速度を保ちながら順調に目的地へと進んでいる。


そこ迄書いて編集者様ワタシ再登場。
「バスガイドも寝るんですか」
「そりゃ寝るでしょ」作家先生ワタシが応戦する。
「運転手のおっさんを置き去りにして」
「置き去りって、つか、、おっさんともまだ決めてないし」
「バスの運転手と言えばおっさんが世の認知です」
「に、認知って。。じゃあそのおっさんが許可した、ぃや運転手が許可しました」
「許可ですか、若い娘に、、、なんか偉そうです」
「ガイドが若いかどうかもまだ決めてません」
「バスガイドと言えば若い娘である事が必須です」
はいはい、ワタシはワタシを納得させる。
「ガイドって寝ないのかな。。」引きずりながら些細なシーンを保留した。
とりあえず引き続きハカセを追っていく。


「まるで海」
 ハカセはそう思った。
 細く開けたカーテンの隙間からの狭い視界に草原が延々と広がっている。
 ハカセは素早くカーテンの中に入った。
 メガネの話の世界がそのままそこにある。


「その子のあだ名はメガネじゃなきゃダメですか」と編集者ワタシ。
「なんでよ」と作家ワタシ。
「なんか微妙に、いやかなりややこしいです」
作家ワタシ、少し変える。


 ハカセはカーテンの中に入った。
 メガネの言っていた通りの世界がそのままそこにあった。


「メガネ君やめましょか」
作家ワタシ、少し変える。


 ハカセはカーテンの中に入った。
 初めて読んだ時は「大袈裟」と話半分に抑制した想像が倍のスケールでそこにある。
 つまり、物語からわいたそのままのイメージが目の前に実際に広がっていた。
 キラキラと反射している。
 昇ったばかりの太陽が朝露にしっとりと濡れた新緑に乗ってバスと並走した。
 朝の強い風が尖った草の先を撫でていく。
 風の通り道だけ緑色が明るくなって草原に風紋が現れては消えた。
「まるで波」
 ハカセはそんな単調にいつまでも魅入っていた。


そこまで書いて不意に雫がぽとり。頭の中の穴ぼこにハカセが一滴すべり落ちた。ごごごごご、という音とともに今度はその穴からハカセが湧いて出た。ワタシは本文の最後をととととと、と素早く数行改行しどんどんハカセを文字にする。とめどなく穴から溢れてくるハカセを消えてしまうその前に急いで箇条に打ち込んだ。

短髪 十五歳 眼鏡 色白
将棋部 ブレザー
彼女
スニーカー白
ゲーム
長身 野球
短髪
科学部
化学部?
中肉中背 十月生まれ
一人っ子 鍵っ子

彼女なし
短髪



この時にいつも思った。
なんか「漁師的」。
もちろん漁に出た事もないし船にすら満足に乗った事はないけどそんな気分だった。
それ今だ野郎ども上げちまえ、と船長のかけ声とともに海から網を引っ張り上げる。
手も足も腰もどこもかしこも痛くても痺れても休んではいけなかった。
この魚群を逃すまいとそれはもう無心で腕をフル回転させる。
そんなゴムツナギにナガグツ姿なワタシを思った。
夢想ワイルドな自分。
そんな自分はいっつもおっかしくて、でももさほど悪くもなかった。
憧れのなれない自分。

やがて、
出つくしたハカセを残らず拾って変換してしまうと「待ってました」と小腹が減った。読み返せば主人公ハカセ像が確立する。「ハカセは主人公ですか?」編集者様ワタシの横槍を放置してカップのコーヒーを覗いた。残っているちょっと多めの一口を一気に飲み干してから一旦ファイルを保存する。ワタシは揚々とメニューに手を伸ばした。




一時休息の頭が先月の事を思い出す。。

勤め先で年度更新が行われない事が通達されてずいぶん憤慨してからやがてワタシは途方に暮れた。必死とは言えなくも自分なりにそれなりに就活などしつつも、その甲斐なく再就職はできないままに迎えた仕事の最後の日。ワタシは定刻通り勤務を終えるとお定まりに渡された小さな花束を持ったまま明るい街を歩いていた。マンションに帰りたくない、それだけがはっきりとしていて、ただひたすらに歩く。ワタシはぼんやりとどこまででも歩ける気がしている、なぜなら明日から何もないし、、そして夜になっていた。いつのまにか着いていたのは彼の駅である。マンションの前で残業で遅くなった彼を罵った。部屋に入ってからは課長を罵り同僚を罵り会社を罵り社会を罵る。そしてわんわん泣いた。いつまでも泣く。涙が枯れて眠った。起きてまた嘆き、今度はしくしく泣く。泣き怒りに疲れきって弱りきってすっかり大人しくなったワタシを見て彼が言った。

「じゃぁさ 結婚しようよ」



ちょうど四週間が経った今、あの日から背中に貼り付いた「無職」の二文字はようやく少しずつ軽くて、その夜、彼が投げた新しい二文字は思ったほど重くない。


新年度に入りこれ迄のゴスペル講座に加えて小説の講座をとった。向いてると思うよと彼に言われたからというわけではなくて何か新しい事を探す。そして吟味してなんとなく俳句よりは人気のなさそうな小説に申し込んだ。自宅からカルチャースクールまでのだいたい中間地点のこの店を見つけたのは偶然である。大手のファミリーレストランが高級版と銘打ってこんな駅から離れた場所に実験的に新規オープンしていた。宣伝も看板もささやかでいまいち盛況ではないようだが、ワタシは気に入っている。電源が自由に使えるしランチを過ぎたひと時のこの閑散ぶりが心地良かった。奥のボックス席がワタシの指定席である。四人ではやや狭く二人だと悠々という贅沢ないいサイズのベンチはワタシ好みにやや固めだった。荷物を手前の席に置いて店内を見渡せる奥に腰かける。そこでワタシはのんびりと小説を書いた。ああでもないこうでもないと自分と対峙して小さな出来事をつくっている。奥のこの席だからなのか地下だからなのかわからないが電波が入らなかった。今どきそれはいいような悪いような。ただ、集中したい時にワタシは電源を切りたいので全く支障はなくて、むしろその手間が省けてよかった。


「小説とか向いていると思うよ」

彼からの言葉を反芻する。結婚に関する方の言葉も時々はなんとなく思い出してみるが今はゆったりと新しい事をしたがっていた。作文の様な事をするなんて多分、中学生以来でなんだかとても新鮮で楽しい。ホントに向いてるなぁ、などと時々ごちてはすぐに打ち消してみたり、そんな事を含めて愉しんでいる自分がなんだか自分らしいなぁなどと初めてワタシは実感していた。

変な春になった。



ついに鬼の店長が現れたのか否か三人のウェイトレスは散っている。
ワタシはテーブルの脇の呼び鈴をカチりと押した。

もう一度メニューを確かめる。


春キャベツサラダ


ウェイトレスが駆けつける前に本文の下にかなぐり打ったハカセのプロフィールの材料に「キャベツ畑」と加えると、間もなく、やって来たのは新人さんである。上手に注文をくり返した彼女にワタシは携帯を振りながら言った。

「ちょっと外に電話かけて来ますね」

彼女が下がりパソコンのディスプレイを閉じた。
店内の様子は相変わらずである。
ワタシは少し迷ってケータイと財布だけ持って席を離れた。



急に話したくなった。


間もなくのゴールデンウィークのワタシ達の計画はドライブ。

その事とか、他にも色々話したくなった。




旦那さまにメールを打つ。

「ダンナさま?」と編集者様ワタシ。
ワタシ、無視。



 やっぱ今日泊まるから



それだけ打って地上への階段を登りきると初夏の陽射しと青空に包まれた。

軽い目眩。

伸ばすと決めた髪を春なのにゆるりとした風がやさしく撫でる。

あんなに上空は雲が速いのに。


やっぱり変。


ぁあ曖昧。


ぐうとひとつ伸びをして、愛など込めて送信。



サラダを食べにとんとんとんと階段を降りた。

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