「本日はお招きいただきまして」
ありがとうございましたと言いながら頭を下げ腰を折る。
一、二、、三
脳天のつむじを相手に見せて三つ数えてからゆっくりと視線を上げた。
鏡の中を睨みつける。
口元をゆるめるのをまた忘れていた。
つきそうになったため息を鼻から抜いて、せめてもと背筋を伸ばす。
いつにも増してさえない顔を懸命に正視した。
今朝は寝坊したのである。
アラームで予定通りに一旦目を覚ますと部屋がしんとし過ぎていて、窓際を見るとカーテンの端より外の闇が洩れていて、なんだかそんな全部が心を細くさせるから思わずまた目を閉じたのだった。
行くのやめようかな、とよぎる弱気の芽を摘みながら、行く、行くけど、でももうちょっと、で折り合うとすぐに意思はくるくると眠りの方へと螺旋状に沈んで行くのである。
次に目を覚ました時、ちょうど始発電車の発車の警笛が耳に届いたのだった。
外はやはりまだ暗かったけど、列車のガタゴトと時々のトラックの走音が聞こえてきて、ようやく気が温まるから、ソレッと毛布から飛び出せた。勢いのまま用意しておいた服に着替えて招待券を財布に入れて外に出る。するとオートバイやらカラスやらコトリ達(鳴き声だけ)が澄んだ早朝のセカイですでに活動を開始していた。駅へと向かいながら色々がとっくに動き出している事を知って「独りじゃない」といっそう心が安まるのだった。
そうして駅に着いてホームへの階段を上がる。
とこんとこんと音を聞きちょうど滑り込んできたのが始発から二本後の電車だった。
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